※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。Amazonアソシエイト・プログラムの参加者として、適格販売により収入を得ています。
「戦略とは何か」と聞かれて、すぐに一言で答えられるだろうか。計画や目標と混ざったまま、なんとなく使っている人は多いはずだ。森岡毅『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』は、USJをV字回復させたマーケターが、戦略とマーケティングの基本を平易な言葉で解説した入門書。この記事では本書の要点を、戦略の定義、「どこで戦うか」の決め方、消費者視点、価格弾力性の4つに分けて整理する。
結論:マーケティングの「最初の1冊」に向く入門書
評価は★4.0。タイトルの「たった1つの考え方」は消費者視点のこと。USJの成功談として読むより、「戦略とは資源配分の選択である」「打ち手は消費者の視点からしか出てこない」という原則を、具体例つきで学べる教科書として読むと価値が大きい。語り口は平易で、マーケティングを体系立てて学んだことがない人でも読み切れる。
- 向いている人:マーケティングや企画に関わり始めた人/「戦略」という言葉をきちんと定義して使いたい人/職種を問わず、限られた予算や人手で成果を出す立場の人
- 向かない人:需要予測や数理モデルなど、実務で使える分析手法を求めている人(その場合は同じ著者の『確率思考の戦略論』のほうが合う)
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門/森岡毅(KADOKAWA) 評価:★4.0
- 戦略とは、目的を達成するために資源配分を選ぶこと
- 「どう戦うか」の前に「どこで戦うか」を見極める
- 打ち手(HOW)は消費者の視点からしか出てこない
「たった1つの考え方」とは消費者視点のこと
本書が描くUSJの変化を一言でまとめると、作り手の都合で考える会社から、消費者がどう感じ、どう動くかで考える会社への転換だ。著者はP&Gでマーケティングを学び、USJに移ってから、この消費者視点を組織全体に根づかせようとした。
その前提にあるのが、マーケティングとは「売れる仕組みを作ること」だという考え方である。良い商品を作れば自然に売れる、という技術志向の発想に著者は繰り返し疑問を投げかける。技術の高さそのものではなく、消費者にとっての価値に翻訳できているかどうかで勝負が決まる、という立場だ。
この「消費者視点」は精神論ではなく、以下で見る戦略の定義、戦う場所の選び方、価格の決め方のすべてに通っている1本の軸になっている。
戦略とは「目的達成のための資源配分の選択」
目的達成のためにリソース配分する選択のこと
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方
本書による戦略の定義はこれだけだ。ポイントは「選択」という言葉にある。戦略はやることのリストではなく、限られたヒト・モノ・カネ・時間をどこに配り、どこに配らないかを決める判断そのものだ、ということになる。
戦略が必要になる2つの理由
著者は、なぜ戦略が要るのかも2つの理由で説明している。1つは達成するべき目的があるから。目指す先がなければ、資源をどう配っても良し悪しを判定できない。もう1つは資源は常に不足しているから。資源が無限なら、全部やればいいので選ぶ必要がない。
裏返すと、「目的があいまい」か「全部やろうとしている」なら、それはまだ戦略になっていない。会議で「戦略」と呼ばれているものの多くが、この2つのどちらかでつまずいている。
目的・戦略・戦術の違い
本書は、目的・戦略・戦術の違いを基本から説明している。混同しやすい3つを、旅行にたとえて並べると次のようになる。
| 何を決めるか | たとえ(筆者の整理) | よくある取り違え(筆者の整理) | |
|---|---|---|---|
| 目的 | どこにたどり着きたいか | 年内に大阪へ行く | 「売上を伸ばす」を戦略と呼んでしまう |
| 戦略 | 限られた資源をどこに配るか | 予算と日程を新幹線に寄せる | やることを全部並べて「戦略」と呼ぶ |
| 戦術 | 選んだ方針を具体的にどう実行するか | どの便を予約し、どう乗り継ぐか | 戦術の工夫で戦略の誤りを取り返そうとする |
※「何を決めるか」は本書の定義にもとづく。たとえと取り違えの列は筆者の整理。
目的が決まって初めて戦略の良し悪しが判定でき、戦略が決まって初めて戦術を選べる。上から順に決めないと、現場の頑張りがどこにも積み上がらない。
「どう戦うか」の前に「どこで戦うか」を決める
どう戦うのかの前に、どこで戦うのかを見極めること
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方
本書で最も実務に効くのがこの一文だと思う。目の前の施策をどう磨くか(HOW)に意識が向きがちだが、その前に、そもそもどの土俵で勝負するか(WHERE)を選ぶ。戦う場所を誤れば、どれだけ上手に戦っても勝てない。
では、どこを選べばいいのか。手がかりになるのが「美しい戦略は相手との差を利用する」という言葉だ。相手と同じ土俵で力比べをするのではなく、自分と相手の違いが有利に働く場所を探す。強い競合がいる市場でも、相手が構造的に手を出しにくい場所や、自社の差が価値として伝わる顧客層は残っていることが多い。
前の章の「資源配分の選択」とつなげると、戦略の中心は、差が生きる場所に資源を寄せる判断だと言える。
消費者視点とは「打ち手を消費者から逆算する」こと
HOWは消費者の視点からしか出てこない
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方
戦う場所が正しくても、それを消費者に届く具体策に落とせなければ成果は出ない。著者は「HOWができてこそマーケター」とも書いており、戦略を語るだけでなく、実際に人が動く打ち手を出せることをマーケターの条件に置いている。
そのHOWの出どころが消費者視点だ。社内の事情や作り手の思い入れから考えた施策は、つい「自分たちが言いたいこと」に寄っていく。消費者が何に困り、何に心が動くのかから逆算して初めて、効く打ち手になる。本書の「たった1つの考え方」は、この逆算の向きを会社全体でそろえることだと読める。
価格弾力性とは?例でわかる値付けの考え方
1%の値上げに対して、何%売上が減少するかという反応度
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方
本書はマーケティングの入門として、価格の考え方にも触れている。価格弾力性は、値段を変えたときに売上(需要)がどれだけ反応するかを表す指標だ。たとえば牛丼のように、少し値上げしただけで客がほかの店へ流れやすい商品は、価格弾力性が大きい商品の典型だ。
| 価格弾力性が大きい | 価格弾力性が小さい | |
|---|---|---|
| 値上げしたとき | 売上が大きく落ちる | 売上があまり落ちない |
| 商品の例 | 牛丼など、代わりの店が多い商品(筆者の整理) | 代わりが少ない商品・必需品(筆者の整理) |
| 値付けの考え方(筆者の整理) | 安易な値上げは危険。価格以外の価値で選ばれる理由を作る | 値上げの余地がある。価格を下げても客はさほど増えない |
本書は自由主義経済の特徴として、参入と退出の自由・価格設定の自由・商品開発の自由の3つを挙げている。価格を自由に決められるからこそ、感覚ではなく反応度を踏まえて決める必要がある。値付けも「気合い」ではなく、消費者がどう反応するかを読む作業であり、ここでも消費者視点が軸になっている。
類書との比較(筆者の整理):戦略の定義は本によってどう違うか
本書の戦略の定義は短くて覚えやすいが、ほかの戦略本と並べると、どこに重心があるかがよく見える。
| USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 | なぜ「戦略」で差がつくのか。 | 良い戦略、悪い戦略 | |
|---|---|---|---|
| 著者 | 森岡毅 | 音部大輔 | リチャード・P・ルメルト |
| 戦略の捉え方 | 目的達成のための資源配分の選択 | 目的達成のために資源をどう使うかの指針。計画とは別物 | 決定的な要素を見極め、そこに資源と行動を集中すること |
| 重心 | 消費者視点と「どこで戦うか」 | 目的・戦略・計画の階層の整理 | 良い戦略と悪い戦略の見分け方 |
| 難しさ | 入門。平易 | 中級。用語の定義が細かい | 中〜上級。事例が多く分量も多い |
※各書の広く知られた主張と、各書評記事で扱った引用にもとづく筆者の整理。
『なぜ「戦略」で差がつくのか。』との違い
同じP&G出身の音部大輔による『なぜ「戦略」で差がつくのか。』も、戦略が必要な理由として「達成すべき目的があるから」を挙げており、出発点はよく似ている。違いは扱う範囲で、音部の本は目的・戦略・計画の関係を細かく定義し直すことに紙幅を使う。本書で「戦略とは選択だ」とつかんだあと、言葉の使い分けを詰めたくなったら次に読む1冊になる。
『良い戦略、悪い戦略』との違い
『良い戦略、悪い戦略』(ルメルト)は、状況の中の決定的な要素に資源を集中させることを戦略の核心に置く。「資源をどこに寄せるか」という点では本書と同じ方向を向いているが、ルメルトは目標を掲げただけの「悪い戦略」を見抜くことに重心がある。本書が「どこで戦うか」を消費者視点から決めるのに対し、ルメルトは状況分析から決める、という違いとして読むとわかりやすい。
森岡毅の本はどれから読むか
森岡毅には、USJ再建の具体的なアイデアの裏側を語った『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』、数学マーケティングを扱った『確率思考の戦略論』(今西聖貴との共著)、キャリア論の『苦しかった時の話をしようか』などがある。マーケティングの考え方の土台をつかむなら、平易な本書が最初の1冊に向いている。数字で需要を読む方法まで踏み込みたい人は、その次に『確率思考の戦略論』へ進むとよい。
本書と合わせて読みたい
- 『顧客起点マーケティング』(西口一希)——本書の「消費者視点」を、一人の顧客を深く分析するN1分析という手法に落とした本
- 『売れるもマーケ 当たるもマーケ』(アル・ライス、ジャック・トラウト)——マーケティングは商品ではなく知覚をめぐる戦いだとする古典。「どこで戦うか」をカテゴリーの一番手という視点で考えられる
- 『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(音部大輔)——戦略と計画・目的の違いを細かく整理した本
- 『良い戦略、悪い戦略』(ルメルト)——決定的な要素への集中という戦略の核心を、悪い戦略との対比で示す本
よくある質問(FAQ)
Q. 「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方」とは?
消費者視点のことです。作り手の都合ではなく、消費者がどう感じ、どう動くかから戦略や打ち手を考える姿勢を指します。本書では、USJがこの消費者視点の会社に変わったことが回復の原動力だったと説明されています。
Q. 戦略とは?
本書の定義では「目的達成のためにリソース配分する選択のこと」です。達成すべき目的があり、資源は常に不足しているからこそ、どこに資源を配り、どこに配らないかを選ぶ必要がある、という考え方です。
Q. 目的・戦略・戦術の違いは?
目的は「どこにたどり着きたいか」、戦略は「限られた資源をどこに配るか」、戦術は「選んだ方針を具体的にどう実行するか」です。上から順に決めることで、現場の努力が目的に向かって積み上がります。
Q. 価格弾力性とは?例は?
値上げに対して売上がどれだけ減るかという反応度のことです。たとえば牛丼のように、少しの値上げで客がほかの店へ流れやすい商品は価格弾力性が大きく、値付けに慎重さが求められます。
Q. 『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』の要約は?
マーケティングとは売れる仕組みを作ることであり、その軸は消費者視点だと説く入門書です。戦略を資源配分の選択と定義し、「どう戦うか」より先に「どこで戦うか」を見極めること、打ち手は消費者の視点から生まれることを強調しています。
Q. 難しいですか?どんな人向けですか?
語り口が平易で、マーケティング未経験でも読めます。マーケティングや企画に関わり始めた人、「戦略」という言葉をきちんと使えるようになりたい人に向いています。
Q. 『確率思考の戦略論』とどちらから読むべき?
考え方の土台をつかむなら本書から、需要を数字で読む方法まで学びたいなら次に『確率思考の戦略論』へ進む順番がおすすめです。
まとめ
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』が教えてくれるのは、戦略もマーケティングも、才能やひらめきより先に「向き」の問題だということだ。資源は足りないから選ぶ。選ぶなら、相手との差が生きる場所を選ぶ。打ち手は自分たちの都合ではなく、消費者の側から考える。どれも一度聞けば納得できる原則だが、忙しい現場ほど逆の向きで考えてしまう。施策が当たらないと感じたとき、「どこで戦っているか」「誰の視点で考えているか」を点検し直すための1冊として手元に置いておきたい。
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門/森岡毅(KADOKAWA) 評価:★4.0
戦略・マーケティングの関連書評:なぜ「戦略」で差がつくのか。/良い戦略、悪い戦略/顧客起点マーケティング/ビジネスの結果が変わるN1分析/売れるもマーケ 当たるもマーケ



