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戦略を考える会議で、資料は山ほどあるのに議論が深まらない。そんなとき足りないのは情報ではなく「問い」かもしれない。金巻龍一『戦略質問』は、戦略を考えるための質問の例を10個に絞って示した本だ。この記事では本書の要点を要約し、10のセントラルクエスチョンを一覧表で整理したうえで、「どこが弱くなるか」というトレードオフの問い方、類書との違いまでまとめる。
結論:戦略の「中身」より「問い方」を手元に置く一冊
評価は★4.0。本書は戦略のフレームワークを網羅的に教える本ではない。出版社の紹介文にあるとおり、「3カ月、1億円」をかけてつくる予定調和の戦略計画ではなく、「1時間、10の質問」から尖った戦略の核をつくる、という立場の本だ。読み終えて手元に残るのは理論より、会議や企画の場でそのまま投げられる問いのリストである。
- 向いている人:戦略・企画の会議を回す立場の人/議論が八方美人の結論に落ち着きがちだと感じている人/1on1や振り返りで使う問いを増やしたい人
- 向かない人:競争戦略の理論や分析手法を体系的に学びたい人
戦略質問―短時間だからこそ優れた打ち手がひらめく/金巻龍一(東洋経済新報社) 評価:★4.0
- 問いに答えようとすることが、眠っている経験や考えを引き出す
- 戦略の核をつくる「10のセントラルクエスチョン」
- 「新しい戦略でどこが弱くなるか」で、選択と集中ができているかを確かめる
戦略質問とは:問いが「眠っている考え」を引き出す
本書の出発点は、質問そのものが思考を動かすという考え方だ。
質問に答えようと考えることが、自分の潜在意識を呼び起こしたり、思い出してまとめたりという作業になってくる
戦略質問
経験や問題意識は、ふだんは頭の中にばらばらに散らばっている。「何か意見は?」と聞かれても出てこないのは、引き出すための取っ手がないからだ。具体的な問いが置かれると、答えようとする過程で記憶が呼び出され、整理され、言葉になる。本書が戦略を「分析」ではなく「質問」から始めようとするのは、この働きを使うためだと読める。
もう一つの柱が「ひらめき」と「非日常」だ。著者は、戦略やビジネスモデルの発想はひらめきから始まると考える。だから相手の脳にいつもと違う刺激を与える必要があり、そのために問いかけを磨くことが有効だ、という論理になる。いつもと同じ問いからは、いつもと同じ答えしか出てこない。問いを変えることが、発想を変えるいちばん手軽なレバーになる。
セントラルクエスチョンとは:戦略を考える10の質問一覧
本書の中心にあるのが、戦略の核をつくるための「10のセントラルクエスチョン」だ。読書ノートに書き留めた10問を、それぞれ何を照らす問いなのかと合わせて表にした。
| # | 質問 | この問いで見えるもの(筆者の整理) |
|---|---|---|
| 1 | この戦略の成功によりどんな恩恵を受けるか? | 戦略の受益者と、成功の意味 |
| 2 | 現在の課題が解決したとして、何が実現できているか? | 課題解決の先にある目的・ありたい姿 |
| 3 | この世から消えた時に誰が悲しむか? | 事業の存在意義と、本当の顧客 |
| 4 | このままの状態だとした場合、X day(終焉)はいつくるか? | 何もしない場合のリスクと時間軸 |
| 5 | 新たな戦略策定によってどこが弱くなるか? | トレードオフ。選択と集中ができているか |
| 6 | 日頃の行いは、自分の家族に誇れることか? | 価値観・倫理とのずれ |
| 7 | あなたの南極探検は何か? | 挑戦したい大きな目標 |
| 8 | 世紀の大番狂わせをするとしたら、それはどんなものか? | 常識の外にある勝ち筋 |
| 9 | 他の会社に移った時に活躍する予感があるか? | 人材・ケイパビリティの実力 |
| 10 | 組織分掌を考えずに任せる場合は誰にやらせるか? | 実行の担い手と、組織の制約 |
※質問は読書ノートの記録にもとづき、一部を短縮した。右の列は筆者の整理。
並べてみると、10問は大きく4つの方向に分かれる。目的を問うもの(1・2・3)、現状の危うさや弱みを直視させるもの(4・5)、視点を非日常へ飛ばすもの(7・8)、そして人と組織を問うもの(6・9・10)だ。どれも「はい/いいえ」では答えられず、答えるには自分の頭の中を一度掘り返す必要がある。前の章の「問いが潜在意識を呼び起こす」が、そのまま形になったリストと言っていい。
戦略質問の使い方:まず1問だけ投げてみる
10問すべてを一度に使う必要はない。たとえば議論が現状維持に流れているなら4の「X day はいつくるか」、施策が増えすぎているなら5の「どこが弱くなるか」、目的がぼやけているなら2の「何が実現できているか」と、場の詰まり方に合わせて1問を選ぶ。こう使い分けると、10問が場面ごとの処方箋として機能する(この使い分けは筆者の整理)。
戦略のトレードオフ:「どこが弱くなるか」を問う
10問のうち、出版社の紹介文でも代表例として挙げられているのが5番目の問いだ。
新たな戦略策定によってどこが弱くなるか(トレードオフになる点はどこか)
戦略質問
新しい戦略を語るとき、人は得られるものばかりを並べがちだ。しかし何かに集中するなら、どこかは必ず手薄になる。弱くなる場所を答えられないなら、それは選択も集中もしていない、ただの「全部やる計画」かもしれない。紹介文の言葉を借りれば、この質問は立案された戦略が本当に戦略になっているか、「選択と集中」がおこなわれているかを確かめるための問いだ。
この考え方は、『良い戦略、悪い戦略』(リチャード・P・ルメルト)が説く「決定的な要素に資源を集中させる」「さまざまな要求にノーと言う」と同じ方向を向いている。ルメルトが戦略の条件として示したものを、本書は会議で投げられる1つの質問に落とし込んでいる、と言える。
会議で使える問い:「何をもって」と「現状と理想」
セントラルクエスチョン以外にも、日々の会議ですぐ使える問いが出てくる。一つは「何をもって」を先に決めることだ。何をもって分析が終わったと言えるか。何をもってこのプロジェクトが成功だったと言えるか。終わりの基準がないまま始めた分析は終わらないし、成功の定義がないまま走ったプロジェクトは振り返りもできない。
もう一つが、問題を洗い出す場の進め方だ。
問題や課題の洗い出しのmtgの際には、「現状」と「理想」の認識を参加者で揃える
戦略質問
課題とは、現状と理想の差のことだ。ある人は現状を「まだ大丈夫」と見ていて、別の人は「かなり危ない」と見ている。その状態で課題を出し合っても、話がかみ合うはずがない。議論の前に、今をどう見ているか、どこを目指しているかを揃える。地味だが、ここを飛ばすと後の議論がすべて空回りする。
類書との比較(筆者の整理):『論点思考』『問い続ける力』との違い
本書は「問い」を扱う本だが、同じく問いを扱う本は他にもある。違いは、問いを何に使うかだ。
| 戦略質問 | 論点思考 | 問い続ける力 | 良い戦略、悪い戦略 | |
|---|---|---|---|---|
| 問いの役割 | 戦略のアイデアを引き出す | 解くべき問題を決める | 前提を疑い、本質に迫る | (問いより戦略の条件を示す) |
| 形 | そのまま使える10の質問 | 論点を決める手順 | 問いを立てる考え方・技法 | 良い戦略・悪い戦略の見分け方 |
| 向いている場面 | 戦略会議・企画の発散 | 課題設定・上司から振られた課題 | 日々の思考・研究的な問い | 戦略の評価・絞り込み |
※各書の広く知られた主張と、当ブログの各書評の内容にもとづく筆者の整理。
『論点思考』(内田和成)が「どの問いを解くか」を決める本だとすれば、本書は「どんな問いを投げれば戦略のアイデアが出てくるか」の本だ。前者は問いを絞り込む方向、後者は問いで発想を広げる方向に重心がある。『問い続ける力』(石川善樹)は、常識や自明に見える直感を疑う問いの立て方を扱っていて、本書の「非日常の問い」を自分で作れるようになりたい人の次の1冊に向く。
筆者が本書の読書メモに残したのは「常に取捨選択することやトレードオフになることを考える」という一行だった。10問のなかで一番手元に残ったのが「どこが弱くなるか」だったということだ。戦略と計画の違いや、取捨選択の判断基準をもう少し体系立てて知りたいなら、『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(音部大輔)が理屈の側を補ってくれる。
あわせて読みたい
- 『良い戦略、悪い戦略』(リチャード・P・ルメルト)——決定的な要素を見極めて資源を集中させる、戦略の本質
- 『論点思考』(内田和成)——解くべき問題=論点を正しく選ぶための手順
- 『問い続ける力』(石川善樹)——常識を疑い、根源的な問いを立てる技法
- 『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(音部大輔)——戦略と計画・目的の違いを整理する
よくある質問(FAQ)
Q. 『戦略質問』の要約は?
戦略のアイデアは分析よりも良い問いから生まれる、という立場の本です。問いに答えようとすることで眠っている考えが引き出されるとし、戦略の核をつくる「10のセントラルクエスチョン」を示しています。代表例は「新しい戦略によってどこが弱くなるか」という、トレードオフを問う質問です。
Q. セントラルクエスチョンとは?
本書で、戦略の核をつくるために投げかける10の中心的な質問のことです。「この世から消えた時に誰が悲しむか?」「このままだとX day(終焉)はいつくるか?」など、目的・リスク・トレードオフ・人と組織を問うものが含まれます。
Q. 戦略を考えるときの質問の例は?
本書の10問のうち、使いやすいのは「新たな戦略策定によってどこが弱くなるか?」「現在の課題が解決したとして、何が実現できているか?」「このままの状態だとした場合、X day はいつくるか?」です。会議の詰まり方に合わせて1問ずつ使うと取り入れやすくなります。
Q. 戦略のトレードオフはどう考えればいい?
本書の問い方は「この戦略でどこが弱くなるか」です。弱くなる場所を答えられない戦略は、選択と集中ができていない可能性がある、という確認に使えます。
Q. 『論点思考』との違いは?
『論点思考』は解くべき問題を決める手順の本、『戦略質問』は戦略のアイデアを引き出す質問集の本です。問いを絞り込むのが前者、問いで発想を広げるのが後者と考えると使い分けやすくなります。
Q. 難しいですか?どんな人向け?
理論や専門用語は少なく、質問そのものが中心なので読みやすい部類です。戦略や企画の会議を回す人、議論が無難な結論に落ち着きがちだと感じている人に向いています。
まとめ
『戦略質問』が教えてくれるのは、考える力は問いの側から引き出せる、ということだ。資料を集める前に問いを置く。新しい施策を足す前に、どこが弱くなるかを聞く。議論を始める前に、現状と理想を揃える。どれも1分で投げられる問いだが、投げるかどうかで議論の行き先は変わる。戦略の理論書を読み込む時間がなくても、10問のリストを手元に置いておく価値はある一冊だ。
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