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マーケティング22の法則のなかでも、いちばん有名なのが「一番手の法則」だ。良い商品を作ったのに売れない、競合より機能は上なのに選ばれない。その原因を、商品ではなく「顧客の頭の中」に求めたのが、アル・ライズとジャック・トラウトの『売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則』(原題:The 22 Immutable Laws of Marketing)。この記事では22の法則の一覧と、本書の核になる一番手の法則・カテゴリーの法則・知覚の法則の考え方を整理し、類書との違いまで比べる。
結論:「どこで一番になるか」を先に決めさせる本
評価は★4.0。1990年代の本なので事例は古いが、主張の骨格はほとんど古びていない。勝負は商品の優劣ではなく、顧客の頭の中での位置取りで決まる。だから「どう勝つか」より先に「どの分野で一番になるか」を決めよ、というのが全編を貫く主張だ。法則ごとに短く区切られていて、1つずつ自分の商品に当てはめながら読める。
- 向いている人:新商品・新サービスの打ち出し方を考える人/後発で、先行する大手と同じ土俵で戦っている人/ポジショニングの考え方を一度きちんと押さえたい人
- 向かない人:広告運用や分析など、具体的な施策の手順を知りたい人(法則集なので、やり方のマニュアルではない)
売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則/アル・ライズ、ジャック・トラウト(訳:新井喜美夫/東急エージェンシー) 評価:★4.0
- マーケティングは商品ではなく「知覚」をめぐる戦い
- 競合より優れているかではなく、「どこが新しいか」で一番になれる分野を決める
- 市場は長期的に2強の争いになる。2番手はトップの反対を取る
マーケティング22の法則とは?一覧で全体像をつかむ
本書は、マーケティングで繰り返し起きる成功と失敗のパターンを、22の「法則」として言い切った本だ。著者のライズとトラウトは「ポジショニング」という考え方を広めた2人で、本書もその延長線上にある。まずは全体像を一覧で見ておく。
| No. | 法則(一般的な呼び名) | ひとことで言うと(筆者の整理) |
|---|---|---|
| 1 | 一番手の法則 | より良いことより、最初であることが強い |
| 2 | カテゴリーの法則 | 一番になれないなら、一番になれる新しいカテゴリーを作る |
| 3 | 心の法則 | 市場への一番乗りより、顧客の心への一番乗り |
| 4 | 知覚の法則 | 戦う場所は商品ではなく顧客の知覚 |
| 5 | 集中の法則 | 顧客の心の中で1つの言葉を持つ |
| 6 | 独占の法則 | 競合がすでに持っている言葉は奪えない |
| 7 | はしごの法則 | 自社がカテゴリーの何段目にいるかで戦い方が変わる |
| 8 | 二極分化の法則 | 長期的には2強の争いになる |
| 9 | 対立の法則 | 2番手はトップの反対を取る |
| 10 | 分割の法則 | カテゴリーは時間とともに枝分かれする |
| 11 | 遠近の法則 | 施策の効果は長い時間軸で現れる |
| 12 | 製品ライン拡張の法則 | ブランドを広げすぎると焦点がぼやける |
| 13 | 犠牲の法則 | 何かを得るには何かを捨てる |
| 14 | 属性の法則 | トップと同じ属性ではなく、別の属性を取りに行く |
| 15 | 正直の法則 | 弱みを認めると、強みが信じてもらえる |
| 16 | 一撃の法則 | 効くのは小さな改善の積み重ねより、大胆な一手 |
| 17 | 予測不能の法則 | 未来と競合の動きは読めない前提で計画する |
| 18 | 成功の法則 | 成功は傲慢を生み、判断を曇らせる |
| 19 | 失敗の法則 | 失敗を認め、早く手を引く |
| 20 | パブリシティの法則 | 話題の大きさと実際の状況は一致しない |
| 21 | 加速の法則 | 一時の流行ではなく、長く続くトレンドに乗る |
| 22 | 資金の法則 | 良いアイデアも、広める資金がなければ動かない |
※法則の名前は一般的に使われる呼び名で、邦訳書の表記とは異なる場合がある。「ひとことで言うと」の列は筆者の整理。
22個すべてを覚える必要はない。読んでみると、前半の「一番手」「カテゴリー」「知覚」が土台で、残りの多くはその応用や、やってはいけないことの裏返しになっている。以下では、その土台と、筆者の読書メモに残った法則を中心に見ていく。
知覚の法則とは:勝負は商品ではなく顧客の頭の中
マーケティングとは、知覚をめぐる戦いであって商品をめぐる戦いではない
売れるもマーケ 当たるもマーケ
本書の前提はこの一文に尽きる。多くの人は「良い商品を作れば、いずれ顧客はわかってくれる」と考える。だが顧客が比べているのは商品そのものではなく、自分の頭の中にあるイメージだ。どれだけ品質で勝っていても、顧客の頭の中で「その分野の代表」として思い出されなければ、選ばれる機会は回ってこない。
この前提に立つと、問いが変わる。「どうすれば商品を良くできるか」から、「顧客の頭の中で、自分たちはどこに置かれているか」へ。22の法則はほぼすべて、この問いに答えるためのものだと読める。
一番手の法則とは:より良いより「最初」が強い
一番手の法則は、本書でいちばん有名な法則だ。ノートには「マーケティングの基本的な課題は、あなたが先頭を切れる分野を想像することである」と残している。顧客は最初にその分野を開いた名前を覚えていて、2番目以降はなかなか思い出せない。だから「より良いもの」で後から追いかけるより、「最初のもの」になれる場所を探すほうが圧倒的に有利になる。
カテゴリーの法則:一番になれないなら、カテゴリーを作る
新製品開発の際には「この製品は競合よりもどこが優れているのか」ではなくて「どこが新しいか」が重要
売れるもマーケ 当たるもマーケ
では、すでに先行者がいる市場ではどうするか。答えは「一番になれる新しいカテゴリーを作る」だ。本書は続けて「どのカテゴリーでトップになるのかを決めること」と言う。競合との比較表で勝とうとするのではなく、比較される土俵そのものを変える発想だ。
これは顧客の側から見ても理にかなっている。著者によれば「顧客はカテゴリーの話になると心を開く」。新しいブランドの売り込みには身構える人も、「新しい種類のもの」の話には興味を持つ。「〇〇より速い△△」ではなく「初めての□□」と言えるかどうかが、カテゴリーを作れているかの分かれ目になる。
カテゴリーの法則の例:どう考えればいいか
本書の主張を自分の商品に当てはめるなら、次の順で考えると整理しやすい(筆者の整理)。
- 今いるカテゴリーで、自分たちは顧客の頭の中の何番目か
- 1番でないなら、その分野を細かく分けたとき「一番」と言える切り口はあるか
- その切り口は「より良い」ではなく「新しい」と言える違いか
- その新しいカテゴリーの名前を、顧客が一言で言えるか
本書の言う「カテゴリでとにかくトップにならなくてはならない」は、規模の大きな市場でトップを取れという意味ではない。トップになれる大きさまで分野を切り直せ、という意味で読むと実務に使いやすい。
二極分化の法則:市場は最終的に「二頭の馬のレース」になる
マーケティングは長期的には二頭の馬のレースになるものだと知っていれば、短期の戦略を練る際に役立つ
売れるもマーケ 当たるもマーケ
カテゴリーができてしばらく経つと、多くの市場は2つのブランドの争いに収れんしていく、というのが著者の見立てだ。ポイントは後半の「短期の戦略を練る際に役立つ」。最終的に2強になるとわかっていれば、いま3番手・4番手にいる会社は、そのまま同じ土俵で戦い続けるのか、2番手の座を取りに行くのか、別のカテゴリーに移るのかを早めに決められる。
長期の構造を知っておくことが、短期の打ち手の判断基準になる。法則集でありながら、時間軸で戦略を考えさせるところが本書の面白さだ。
対立の法則:2番手はトップの「反対」を取る
トップシェアの製品のエッセンスを見つけ出し顧客にそれと反対のものを提供する
売れるもマーケ 当たるもマーケ
では2番手はどう戦うか。トップを真似して「同じだけど少し良い」を目指すと、顧客の頭の中では「トップの劣化版」として整理されてしまう。だからトップの強みの核を見つけ、その反対側に立つ。トップが「定番」なら自分は「新しい世代のための選択」、トップが「みんなが使う」なら自分は「わかる人が選ぶ」というように、比べられたときに別の理由で選ばれる位置を取る。
ここで面白いのが、ノートに残した「20歳と思いたい50歳男性もペプシを買う」という一文。若者向けのポジションを取ったブランドを買うのは、実際の若者だけではない。若くありたい人も買う。あわせて「ターゲットはすぐにサービスを購入してくれる顧客だけではない」ともある。ポジションは「誰に売るか」の線引きではなく、「どんな人だと思われたいか」に響く旗印として働く、ということだ。
競合の反応を読む:マーケティングが失敗する主な理由
競合各社の反応を見通せないことがマーケティングを失敗する主な理由
売れるもマーケ 当たるもマーケ
ここまでの法則は、どれも「自社だけを見ていては決まらない」点で共通している。一番手かどうかも、2番手が反対を取れるかどうかも、競合との位置関係で決まる。自社の施策だけを詰めて、競合がそれにどう反応するかを考えないと、良い打ち手でもすぐに打ち消される。
同時に本書は、未来や競合の動きは読み切れないという立場も取っている。だから細かい長期計画を作り込むより、競合の反応を織り込んだうえで、状況が変わったら素早く動けるようにしておく。法則を「必ずこうなる」という予言ではなく、「こうなりやすい」という地図として使うのが本書との付き合い方だと思う。
類書との比較(筆者の整理):『ZERO to ONE』『良い戦略、悪い戦略』との違い
「一番になれる場所を選べ」という主張は、ほかの戦略書とも重なる部分が多い。同じ書評ブログで扱った本と並べると、本書の立ち位置がはっきりする。
| マーケティング22の法則 | ZERO to ONE | 良い戦略、悪い戦略 | |
|---|---|---|---|
| 何を勝ち筋とするか | 顧客の頭の中で一番になれるカテゴリーを取る | 競争を避け、独占できる新しい市場を作る | 状況の決定的な要素を見極め、資源を集中する |
| 主な視点 | 顧客の知覚・ポジショニング | 起業家・事業の構想 | 経営・組織の意思決定 |
| 形式 | 短い法則の集まり | 講義をもとにした論考 | 事例と理論の解説 |
| 向いている悩み | 良い商品なのに選ばれない | そもそも何を作るべきか | 目標はあるが打ち手が決まらない |
※比較は各書の広く知られた主張にもとづく筆者の整理。
3冊とも「同じ土俵で正面から殴り合うな」という点では一致している。違いは土俵をどこに見るかだ。『ZERO to ONE』(ピーター・ティール)は、競争そのものを避けて独占できる市場を作れと説く。事業の構想段階の本で、本書の「カテゴリーを作る」をもっと根本から、起業家の立場で語ったものと読める。
一方の『良い戦略、悪い戦略』(リチャード・P・ルメルト)は、決定的な一点を見極めて資源を集中せよという本だ。本書の「一番になれる分野に絞る」を、経営の意思決定の言葉で書き直したものに近い。顧客の頭の中という一点に焦点を当てる本書は、この2冊のあいだで「マーケティングの現場でどう位置取るか」を担う一冊と言える。
あわせて読みたい
本書の法則を実際の戦略や施策に落とすなら、マーケティングの「戦略」と「計画」を分けて考える『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(音部大輔)が次の一冊にちょうどいい。本書の法則が「どこで戦うか」を決めるなら、音部さんの本はそれを目的・戦略・計画の順に組み立てる手順を扱っている。
また、「顧客の頭の中」をどう知るかについては『顧客起点マーケティング』(西口一希)が具体的だ。一人の顧客を深く分析して、なぜその商品が選ばれているのかを掘り当てる考え方は、本書の知覚の法則を実務で確かめるときの道具になる。
- 『ZERO to ONE』(ピーター・ティール)——競争ではなく独占を目指す、ゼロからイチの事業論
- 『良い戦略、悪い戦略』(リチャード・P・ルメルト)——決定的な要素を見つけて資源を集中する、戦略の本質
- 『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(音部大輔)——マーケティングにおける戦略と計画の違い
- 『顧客起点マーケティング』(西口一希)——一人の顧客から戦略を組み立てるN1分析
よくある質問(FAQ)
Q. マーケティング22の法則とは?
アル・ライズとジャック・トラウトが、マーケティングの成功と失敗のパターンを22の法則にまとめたものです。邦訳は『売れるもマーケ 当たるもマーケ』。一番手の法則・カテゴリーの法則・知覚の法則などが含まれ、「勝負は商品ではなく顧客の頭の中で決まる」という考え方が土台になっています。
Q. 一番手の法則とは?
「より良いもの」より「最初のもの」のほうが強い、という法則です。顧客は分野を最初に開いた名前を覚えやすく、2番目以降は思い出されにくい。だからまず、自分が先頭を切れる分野を探すことが基本の課題になります。
Q. カテゴリーの法則の例は?
既存の市場で一番になれないときに、比較の土俵を変えて「新しい種類のもの」として打ち出すことです。「競合より優れた〇〇」ではなく「初めての△△」と言えるように、一番になれる大きさまで分野を切り直すのが考え方の基本です。
Q. 知覚の法則とは?
マーケティングは商品の優劣ではなく、顧客の頭の中のイメージ(知覚)をめぐる戦いだ、という法則です。品質で勝っていても、顧客にその分野の代表として思い出されなければ選ばれません。
Q. 古い本ですが、今でも役に立ちますか?
原書は1990年代の出版で事例は古いものの、「どこで一番になるかを決める」「2番手はトップの反対を取る」といった考え方は今も使えます。事例は読み流し、法則を自分の商品に当てはめながら読むのがおすすめです。
Q. 『ZERO to ONE』との違いは?
どちらも正面からの競争を避ける点は共通です。『ZERO to ONE』は独占できる新しい市場を作る事業論、本書は顧客の頭の中で一番になれるカテゴリーを取るマーケティングの法則集、という違いがあります。
まとめ
『売れるもマーケ 当たるもマーケ』が突きつけるのは、「良くすれば勝てる」という思い込みだ。顧客が比べているのは商品ではなく頭の中のイメージで、そこでは「最初」と「一番」が強い。だから努力の向け先は、商品を磨くことの前に、一番になれる場所を選ぶことにある。後発だから負けるのではなく、後発なのに先行者と同じ場所で戦うから負ける。新しい商品を考えるとき、「どこが優れているか」の前に「どこが新しいか」を一度だけ問い直す。それだけでも、この本を読む価値は十分にある。
売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則/アル・ライズ、ジャック・トラウト(訳:新井喜美夫/東急エージェンシー) 評価:★4.0
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