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戦略を立てたはずなのに、出てくるのは施策の一覧ばかり。それぞれは正しそうなのに、なぜ儲かるのかを一言で説明できない。楠木建『ストーリーとしての競争戦略』は、この「施策が並んでいるだけ」の状態から抜け出すための本だ。この記事では本書を要約し、核心となるクリティカル・コアとは何か、SP(ポジショニング)とOC(組織能力)の違い、類書との使い分けまで整理する。
結論:戦略を「一覧」ではなく「筋書き」で考え直す一冊
評価は★4.0。フレームワークを覚える本ではなく、個々の打ち手がどうつながって利益になるのかを語れるようにする本だ。厚さはあるが、語り口が講義調でやわらかく、事例を追いながら読み進められる。
- 向いている人:事業や新規サービスの戦略を描く立場の人/施策は多いのに一貫性がないと感じている人/差別化の理屈を言葉にしたい人
- 向かない人:すぐ使える分析テンプレートや手順書を求めている人
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件/楠木建(東洋経済新報社) 評価:★4.0
- 戦略の本質は「違いをつくって、つなげる」こと
- ストーリーは「持続的な利益」という結末から逆算して組み立てる
- 一見非合理な「クリティカル・コア」が、まねされない強さを生む
戦略の本質とは「違いをつくって、つなげる」こと
「違いをつくって、つなげる」、一言でいうとこれが戦略の本質です。
ストーリーとしての競争戦略
本書の定義は、ここに集約される。前半の「違いをつくる」は多くの戦略論が言っていることだ。本書が独自なのは後半の「つなげる」に重心を置いた点にある。
違いを1つ作っても、それだけなら他社がまねをすれば消える。著者によれば、「個別の違いが因果論理で縦横につながったとき、戦略は「動画」になります」。施策を並べた一覧は、言ってみれば静止画だ。一方で、Aをやるから Bが効き、Bが効くから Cが成り立つ、という因果の流れになっていれば、部分だけを切り取ってまねしてもうまくいかない。
だから戦略をストーリーとして語るとは、要素がどう連動して全体として事業を動かすのか、なぜ他社が出せない価値と利益につながるのかを説明することだ、と本書は言う。「打ち手のリスト」を見て戦略だと思っていないか、という問いがこの本の出発点になる。
SPとOCの違い:ポジショニングと組織能力、2つの「違いのつくり方」
では「違い」はどうつくるのか。本書は、競争戦略論の2つの考え方を整理している。1つはSP(ポジショニング)、もう1つはOC(組織能力)だ。
| SP(ポジショニング) | OC(組織能力) | |
|---|---|---|
| 違いの源泉 | 何をやり、何をやらないかの選択 | 他社が持たない独自の強み(経営資源) |
| 持続させる仕組み | トレードオフ(あちらを立てればこちらが立たぬ) | その強みが模倣しにくいこと |
| 問いの形(筆者の整理) | どこで、何を捨てて戦うか | 何が自社にしかできないか |
※「問いの形」の行は筆者の整理。
「何をやるか」よりも、「何をやらないか」のほうに戦略的な意思決定の本質があります。
ストーリーとしての競争戦略
SPの考え方で大事なのは、やらないことを決めるとトレードオフが生まれ、それが他社との違いを持続させる壁になるという点だ。逆に「他社よりもベター」を目指すだけでは戦略にならない、と本書ははっきり書いている。
OCのほうは「独自の強みを持ちましょう」という一見当たり前の話だが、問題はその強みが他社にとって模倣可能かどうかにある。本書は「SPが明確でOCも強い、これが最強の状態」としつつ、現実には両者の間に緊張関係があり、企業の戦略思考はどちらかに偏るのが普通だとも指摘する。どちらのルートで登るのかを自覚することが、戦略を考える土台になる。
戦略ストーリーの組み立て方:5つの要素と「終わりから考える」
本書では戦略ストーリーを構成する要素を、頭文字をとって「5C」としてまとめている。
| 要素 | 中身 | チェックする問い(筆者の整理) |
|---|---|---|
| 競争優位(Competitive advantage) | 利益を生む最終的な理屈 | なぜ他社より儲かるのか |
| コンセプト(Concept) | 本質的な顧客価値の定義 | 本当のところ、誰に何を売っているのか |
| 構成要素(Components) | SPやOCとして打ち出す具体的な違い | 何をやり、何をやらないか |
| クリティカル・コア(Critical core) | 多くの要素とつながる中核の要素 | 他社から見て一見非合理な打ち手はあるか |
| 一貫性(Consistency) | 要素どうしの因果のつながり | 一つ抜くと全体が崩れる構造になっているか |
※「チェックする問い」の列は、本書の記述をもとにした筆者の整理。
思考の順番、つまり「終わりから考える」ことが大切です。
ストーリーとしての競争戦略
組み立てる順番について、本書の答えは明快だ。どんな戦略ストーリーも、結末は「持続的な利益創出」で決まっている。結末が決まっているなら、目の前の施策から積み上げるより、結末から逆回しに考えたほうが一貫した筋書きになる。
施策から発想すると、それぞれは合理的なのに全体としてつながらない、ということが起きやすい。利益が生まれる理屈を先に描き、そこからさかのぼって各要素が本当に必要かを判断する。表の5つの要素は、その逆算のためのチェックリストとして使える。
コンセプトとは「本当のところ、誰に何を売っているのか」
ストーリーの起点になるのがコンセプトだ。本書はコンセプトを「本質的な顧客価値の定義」とし、それは「本当のところ、誰に何を売っているのか」という問いに答えることだと言う。さらに「これだ!」というコンセプトが固まれば、ストーリーづくりの半分は終わったも同然だ、とまで書いている。
注意点として挙げられているのが、コンセプトを考えるときに「どのように」という方法論に傾きがちなことだ。「誰に」と「何を」が抜けて「どのように」ばかりが前に出ると、コンセプト不全に陥る。
ターゲット顧客から徹頭徹尾喜ばれるということは、ターゲットから外れる顧客にはっきりと嫌われるということです
ストーリーとしての競争戦略
もう一つの要点が、「誰に嫌われるか」をはっきりさせることだ。ターゲットを決めるとは、ターゲットでない人を決めることでもある。聞いた瞬間に「そんなのイヤだ」と言いそうな人が思い浮かぶ言葉のほうが、コンセプトとしてはむしろ筋が良い。万人に好かれようとしたコンセプトは、結局だれの「これだ」にもならない。SPの「何をやらないか」と同じ構造が、顧客の側にも現れているのがわかる。
クリティカル・コアとは:「一見非合理」が全体の合理を生む
本書でもっとも独自性が高い概念が、クリティカル・コアだ。定義は「戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」。条件は2つある。
クリティカル・コアの2つの条件
- 他の多くの構成要素とつながっている:ストーリーの中で、いくつもの要素の結節点になっている
- 一見して非合理に見える:ストーリーから切り離して単独で見ると、競合には「やるべきではないこと」に映る
ストーリーの本質は「部分の非合理を全体の合理性に転化する」ということにあります。
ストーリーとしての競争戦略
単体で合理的な打ち手は、誰もが採用するので差にならない。逆に、単体では損に見える打ち手が全体の筋書きの中で効いていると、競合はそれをまねしない。本書はスターバックスの例を挙げ、「まねできなかった」のではなく、そもそも「まねしようと思わなかった」のがポイントだと強調する。
なぜ「一見非合理」に踏み切れるのか
では、どうすれば一見非合理なことをあえてやる決断ができるのか。本書の答えは、自らのストーリーに対する「論理的な確信」しかない、というものだ。経営者は、確信が持てるまで「なぜ」を突き詰めるべきだとされる。「損して得取れ」のような昔からの言い回しを、戦略論として言語化したのがクリティカル・コアだと言える。
類書との比較(筆者の整理):『良い戦略、悪い戦略』『ZERO to ONE』との違い
戦略の本は「戦略とは何か」を別々の角度から語っている。本書の位置づけをつかむために、当ブログで紹介している3冊と並べてみる。
| ストーリーとしての競争戦略 | 良い戦略、悪い戦略 | ZERO to ONE | なぜ「戦略」で差がつくのか | |
|---|---|---|---|---|
| 戦略とは | 違いをつくって、つなげること | 決定的な要素を見極め、資源を集中すること | 競争を避け、独占を目指すこと | 目的達成のために資源をどう使うかの指針 |
| 注目する単位 | 要素どうしのつながり(筋書き) | 狙いを絞る一点 | 市場そのもの(ゼロからの創造) | 目的・戦略・計画の階層 |
| 向いている悩み | 施策がバラバラで一貫性がない | 目標はあるが打ち手が決まらない | 既存市場での消耗戦から抜けたい | マーケ施策の判断基準がない |
※各書の広く知られた主張と当ブログの書評にもとづく筆者の整理。
『良い戦略、悪い戦略』との違い
『良い戦略、悪い戦略』(ルメルト)は、目標の羅列を「悪い戦略」として退け、状況の中の決定的な要素に資源を集中せよと説く。本書と同じく「やらないことを決める」立場だが、ルメルトがどこに集中するかを問うのに対し、本書は集中した打ち手どうしがどうつながるかを問う。前者で狙いを絞り、本書で筋書きにする、という順で読むと補い合う。
『ZERO to ONE』との違い
『ZERO to ONE』(ピーター・ティール)は、競争の中で勝つより競争そのものを避けて独占を目指せ、という主張だ。本書は既存の業界で競争しながら、まねされない違いを持続させる理屈を扱う。新しい市場をつくる話か、いまの市場で違いを保つ話か、という前提の違いがある。
戦略と計画の違いもあわせて押さえる
本書を読んで「では自分の仕事で戦略と施策をどう分けるか」が気になった人には、『なぜ「戦略」で差がつくのか』(音部大輔)が実務寄りの補助線になる。戦略は計画を選ぶための判断基準であり、目的そのものでも計画そのものでもない、という整理は、本書の「施策の一覧は戦略ではない」という主張と同じ方向を向いている。
あわせて読みたい
- 『良い戦略、悪い戦略』ルメルト——戦略と目標の違い、決定的な一点への集中
- 『ZERO to ONE』ピーター・ティール——競争ではなく独占を目指すスタートアップの戦略
- 『なぜ「戦略」で差がつくのか』音部大輔——戦略と計画・目的の違いをマーケティングの実務で整理
よくある質問(FAQ)
Q. クリティカル・コアとは?
戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素のことです。他の多くの要素とつながっていること、単独で見ると一見非合理に見えることが条件で、競合が「まねしようと思わない」ために優位が続きます。
Q. SP(ポジショニング)とOC(組織能力)の違いは?
SPは「何をやり、何をやらないか」の選択でトレードオフをつくり、違いを持続させる考え方です。OCは他社が模倣しにくい独自の強みに違いの源泉を求める考え方です。本書は両方そろうのが最強だとしつつ、現実にはどちらかに偏りやすいと指摘しています。
Q. 『ストーリーとしての競争戦略』の要約は?
戦略の本質を「違いをつくって、つなげる」ことと定義し、個々の打ち手が因果でつながった「ストーリー」として戦略を描くべきだと説く本です。持続的な利益という結末から逆算して組み立て、一見非合理な「クリティカル・コア」を組み込むことで、まねされない強さが生まれるとしています。
Q. 『良い戦略、悪い戦略』との違いは?
『良い戦略、悪い戦略』は決定的な要素を見極めて資源を集中することを重視し、本書は打ち手どうしのつながりで一貫性をつくることを重視します。狙いを絞る本と、筋書きにする本という関係です。
Q. 難しいですか?
ページ数は多めですが、講義のような語り口で事例も豊富なので、経営学の予備知識がなくても読み進められます。自社や身近な企業の戦略に当てはめながら読むと理解しやすくなります。
Q. どんな人向けですか?
事業や新規サービスの戦略を考える立場の人、施策は多いのに一貫性がないと感じている人、差別化の理屈を言葉にしたい人に向いています。
まとめ
『ストーリーとしての競争戦略』が問い直すのは、戦略を「何をやるかのリスト」として考える癖だ。違いをつくるだけでなくつなげる、結末から逆算する、誰に嫌われるかを決める、そして単体では損に見える打ち手を全体の筋書きで生かす。どれも、一つひとつの施策の正しさより、施策の間の関係を見よという同じメッセージに行き着く。手元の計画が施策の一覧に見えたら、その間を因果の矢印でつなげるかを試してみるといい。つながらない部分が、ストーリーの欠けているところだ。
戦略クラスタの関連記事:良い戦略、悪い戦略/なぜ「戦略」で差がつくのか/ZERO to ONE/マーケティング22の法則(売れるもマーケ当たるもマーケ)


