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PMFとは何か、NSMとは何か。プロダクトづくりの用語は知っているつもりでも、説明しようとすると曖昧になりやすい。及川卓也・曽根原春樹・小城久美子『プロダクトマネジメントのすべて』は、事業戦略からUX、技術、チーム運営までを一冊で見渡せる本だ。この記事では、PMFと価値仮説、UXの考え方、NSM、PdMに必要な技術知識の4点を整理する。
結論:プロダクト運営の全体像をつかむための俯瞰型の一冊
副題にあるとおり、事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティング・チーム運営まで範囲が広い。特定の手法を深掘りする本ではなく、プロダクトマネージャー(PdM)の仕事の全体像と共通言語をつかむための本だ。
- 向いている人:PdMになったばかり・目指している人/PMFやNSMといった用語を自分の言葉で説明できるようになりたい人
- 向かない人:1つの手法(たとえば指標設計だけ)を深く学びたい人
プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで/及川卓也・曽根原春樹・小城久美子
- PMFとは、強力な価値仮説を見つけること
- UXは点ではなく線で考え、メンタルモデルとアフォーダンスを押さえる
- NSMは、コアの価値がユーザーに届いているかを知る単一の指標
PMFとは何か:「強力な価値仮説」を見つけること
PMF(プロダクトマーケットフィット)は「市場に合うこと」と説明されることが多い。本書はそれをもう一歩具体的にして、仮説の問題として扱う。
PMFとは強力な価値仮説を見つけることである
プロダクトマネジメントのすべて
ここでいう価値仮説とは、なぜユーザーや顧客がそのプロダクトを使うのかを説明しうる重要な仮説のことだ。つまりPMFは「達成した・していない」の二択ではなく、「なぜ使われるのか」を説明できる仮説にどこまで近づいたかという見方になる。使われる理由を言葉にできないまま機能を足しても、どの機能が効いているのか判断できない。
アイデアを客観視する3つの問い
本書は、アイデアを客観視するための問いとして、「課題は本当に存在するのか?」「ターゲットと考えるユーザーにとって重要な課題なのか」、そして解決策がその課題を解く最善のものか、という3つを挙げている。順に、課題の有無、課題の重要度、解決策の妥当性を確かめる流れだ。解決策から考え始めがちなところを、課題の側から確かめ直す問いになっている。
メンタルモデルとアフォーダンスとは:UXを「線」で考える
UXの章の軸は、「点ではなく、線で考える」という考え方だ。
UXを検討するときは「点ではなく、線で考える」ことが重要である
プロダクトマネジメントのすべて
画面1枚の使いやすさ(点)だけでなく、ユーザーが使い始めてから目的を果たすまでの一連の流れ(線)で体験を見る、という意味に読める。その線の上で効いてくるのが、次の2つの概念だ。
メンタルモデルとアフォーダンスの違い【比較表】
| メンタルモデル | アフォーダンス | |
|---|---|---|
| 何についての概念か | ユーザーの頭の中にある「このように動くだろう」という暗黙の前提 | プロダクトの形や様子から、説明なしに使い方がわかること |
| 主に存在する場所 | ユーザー側 | プロダクト側 |
| 設計上の問い(筆者の整理) | ユーザーの想定と、実際の動きがずれていないか | 説明がなくても、使い方が伝わる形になっているか |
※1・2行目は本書の定義をもとにした整理。「主に存在する場所」「設計上の問い」の行は筆者の整理で、本書にこの表があるわけではない。
ユーザーはプロダクトに触れたとき、暗黙のうちに「こう動くはず」と考えている。この前提がメンタルモデルだ。一方のアフォーダンスは、プロダクトの側が持つ手がかりを指す。前者を把握し、後者でそれに応える、という組み合わせで見ると、UXの検討が整理しやすい。
NSM(North Star Metric)とは:コアの価値が届いているかを見る単一の指標
NSMは「プロダクトのコアとなる価値がユーザーに届いているかを知る単一の指標」と定義される
プロダクトマネジメントのすべて
売上や登録数のような結果の数字ではなく、価値が届いているかを見るための指標、という位置づけだ。ノートには、ビデオ会議サービスを例に「1週間あたりに開催された会議数」を挙げる記述がある。登録者数ではなく、実際に価値が使われた回数を見る発想がよく表れている。
NSMを選ぶときの5つの条件
| 条件(本書) | 見るポイント(筆者の整理) |
|---|---|
| ユーザーの体験の向上とリンクしているか | 数字が伸びたとき、ユーザーも嬉しいと言えるか |
| プロダクトの定着度合いを示しているか | 一度きりではなく、使い続けられていることが反映されるか |
| 横軸に時間、縦軸に収益を取ったときに右上方向に進むか | 指標の成長が、長期の収益の成長と同じ向きか |
| 収益に結びつくための先行指標か | 収益の数字が動く前に、変化が見えるか |
| 組織内で理解してもらえるか | 職種を問わず、一言で説明できるか |
※左の列はノートにある本書の5点。右の列は筆者が読み取りやすいように言い換えた整理で、本書の記述そのものではない。
5つを並べると、NSMは「大きく伸びる数字」ではなく、ユーザーの価値・定着・収益・組織の理解という4つの方向を同時に満たす数字だと分かる。どれか1つでも欠けると、追いかける意味が薄れる。
PdMはどこまで技術を知るべきか:3つの基礎知識
PdMとしてソフトウェアが動く仕組み、ネットワーク、データベースの3つは押さえておく必要がある
プロダクトマネジメントのすべて
PdMはエンジニアそのものではないが、開発チームと対等に会話するための土台として、この3つが挙げられている。実装できる必要はなくても、「それはなぜ時間がかかるのか」「どこに制約があるのか」を理解できるかどうかで、優先順位の議論の質が変わる。
もうひとつ、本書はPdMの役割として、プロダクトを使って「どんな状態にしたいか」、つまりどんな世界をつくりたいのかを定め、チーム全体にその意味を伝えることを挙げている。機能の管理ではなく、意味づけがPdMの仕事に含まれる、という整理だ。
似た本・関連記事との比較:何を扱う本か
プロダクトの仮説づくりは、別のテーマの本とつなげると理解が深まる。
| 本 | 主に扱うテーマ(筆者の整理) |
|---|---|
| 本書 | PMF・UX・NSM・技術・組織までの全体像 |
| 『解像度を上げる』 | 課題や顧客を具体的に捉える考え方 |
| 『N1分析』 | 1人の顧客を深く理解する分析 |
| 『グロースハックの教本』 | 指標をもとにした改善の進め方 |
※表の内容は各書の主題を筆者がざっくり対比したもの。細部は各書評を参照。
価値仮説を立てる段階では『解像度を上げる』や『N1分析』、立てた後に数字で回す段階では『グロースハックの教本』がつながりやすい。本書は、その前後を一本の流れとして見渡すための地図の役割を持つ。
読んで考えたこと(筆者)
本書は、PMFを「達成したか」ではなく「価値仮説を説明できるか」で見る本だと読んだ。この見方に立つと、NSMも単なる目標数値ではなく、価値仮説が当たっているかを毎週確かめるための物差しとして位置づけられると考えている。なお、読書ノートのメモには「プロダクトマネージャーの手法や業務内容の本というよりは、転職活動やキャリアの本になっている」と残っている。個別の手法を知りたい人は、他の本との併読が前提になるかもしれない。
あわせて読みたい
- 【書評】解像度を上げる(馬田隆明)——課題を具体的に捉える
- 【書評】N1分析(西口一希)——1人の顧客から考える
- 【書評】グロースハックの教本(金山裕樹・梶谷健人)——指標で改善を回す
- 【書評】外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント(山口周)——プロジェクトの進め方
よくある質問(FAQ)
Q. PMFとは?
本書では、PMFを「強力な価値仮説を見つけること」と定義しています。価値仮説とは、なぜユーザーや顧客がそのプロダクトを使うのかを説明しうる重要な仮説のことです。
Q. NSM(North Star Metric)とは?
プロダクトのコアとなる価値がユーザーに届いているかを知る単一の指標です。本書では、ユーザー体験の向上とリンクしているか、定着を示しているか、収益に結びつく先行指標か、組織内で理解されるかなどが選ぶ際のポイントとして挙げられています。
Q. メンタルモデルとアフォーダンスの違いは?
メンタルモデルは、ユーザーがプロダクトに対して暗黙のうちに持つ「このように動くだろう」という前提です。アフォーダンスは、プロダクトの形や様子から、説明がなくても使い方がわかる性質を指します。
Q. プロダクトマネージャーに必要な技術知識は?
本書は、ソフトウェアが動く仕組み、ネットワーク、データベースの3つは押さえておく必要があるとしています。
Q. どんな人向けですか?
プロダクトマネージャーの仕事の全体像をつかみたい人、PMFやNSMなどの用語を整理したい人に向いています。特定の手法を深く学びたい人は、他の本と併せて読むのがおすすめです。
まとめ
本書が一貫して問うのは、「このプロダクトは、なぜ使われるのか」だ。PMFは価値仮説、UXはユーザーの前提と体験の流れ、NSMは価値が届いたかの確認と、それぞれ同じ問いを別の角度から見ている。用語を覚えるより、自分のプロダクトでこの問いに答えられるかを確かめる使い方が、この本には合っている。
プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで/及川卓也・曽根原春樹・小城久美子
関連記事:解像度を上げる/N1分析/グロースハックの教本



