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グロースハックとは何か。裏技的な集客テクニックだと思われがちだが、『いちばんやさしいグロースハックの教本』(金山裕樹・梶谷健人)の答えはもっと地味で、もっと再現性がある。製品の中に成長する仕組みをつくり、その結果をデータで直し続けること。この記事では本書の要点に加えて、良いKPIの3条件、AHAモーメントのつくり方、『Hacking Growth』との違いを整理する。
結論:グロースハックを「仕組みと指標」から学ぶ入門書
評価は★4.0。2016年刊行のため事例は当時のアプリ中心だが、扱っている原理(何の数値を追うか、ユーザーにどう価値を実感させるか、行動をどう観察するか)は今も古びていない。グロースハックという言葉は知っているが、何から手をつければいいかわからない人の最初の1冊に向いている。
- 向いている人:プロダクトやWebサービスの改善を任されたばかりの人/KPIの立て方に自信がない人/マーケとプロダクトの間で数字を見る立場の人
- 向かない人:実験の運営方法や組織づくりまで深く知りたい人(その場合は後述の『Hacking Growth』が合う)
いちばんやさしいグロースハックの教本 人気講師が教える急成長マーケティング戦略/金山裕樹・梶谷健人(インプレス) 評価:★4.0
- グロースハック=製品に成長の仕組みを組み込み、データで改善すること
- 改善の前に「どの数値をどうしたいか」を決める。KPIは行動につながり、比較できるものを選ぶ
- 価値提案と利用方法の説明で、ユーザーに早く「AHAモーメント」を体験させる
グロースハックとは「製品に成長の仕組みを組み込むこと」
本書の定義は一文にまとまっている。
製品の中に自発的に成長する仕組みを組み込んで、その結果をデータで改善していくこと
いちばんやさしいグロースハックの教本
この定義には2つの部品がある。1つは製品の中にという場所の指定。広告やキャンペーンのように外から人を連れてくる施策ではなく、使うこと自体が次の利用や紹介を生むように製品を設計する、という発想だ。もう1つはデータで改善していくという進め方。仕組みを作って終わりではなく、効いているかを数字で確かめ、直し続ける。
だから本書の言う意思決定の根拠は、会議で声の大きい人の意見でも、作り手の「こう使ってくれるはず」でもない。「ユーザーの行動データをもとに意思決定する」ことが繰り返し強調される。グロースハックとは、派手な一発ではなく、この地道なループの名前だと理解しておくと、本書全体が読みやすくなる。
KPIの決め方:「どの数値をどうしたいか」から始める
どの数値をどのようにしたいかを明確に定義しておく
いちばんやさしいグロースハックの教本
改善に手をつける前に、動かしたい数値とその方向を決めておく。当たり前に聞こえるが、これがないと施策が当たったのか外れたのかを誰も判定できない。本書が「施策のチェックができる計画を立てる」ことを求めるのも同じ理由で、検証できる形で始めない施策は、終わったあとに何も残らない。
良いKPIの3条件
では、追う数値はどう選ぶか。本書はKPIに必要な要素として「行動につながる指標であること」「理解しやすい」「期間ごとに比較ができる」の3つを挙げている。
| 条件(本書) | 満たさないと起きること | チェックの問い |
|---|---|---|
| 行動につながる | 数字が動いても、誰が何をすればいいか決まらない | この数値が下がったら、次に打つ手が思い浮かぶか |
| 理解しやすい | 人によって解釈が割れ、議論が数字の定義の話で終わる | チームの誰に聞いても同じ意味で説明できるか |
| 期間ごとに比較ができる | 良くなったのか悪くなったのか判断できない | 先週・先月と同じ条件で並べられるか |
※「満たさないと起きること」「チェックの問い」の列は、本書の3条件をもとにした筆者の整理。
3つ目の「比較ができる」は、『イシューからはじめよ』(安宅和人)の「分析とは比較すること」という考え方とも重なる。単発の数字には意味がなく、比べる相手があって初めて判断の材料になる。
AHAモーメントとは:価値提案と利用方法の説明で生まれる
新しいユーザーが「これは便利だ」と実感する瞬間を、本書はAHAモーメントと呼ぶ。そこにたどり着く前に離れてしまうユーザーは多く、だからこそ最初の体験の設計が重要になる。本書はAHAモーメントを生む要素を、価値提案(バリュープロポジション)と利用方法の説明の組み合わせとして整理している。
サービスがどんな価値を提供するのかを明らかにすること
いちばんやさしいグロースハックの教本
これが価値提案の定義で、もう一方の利用方法の説明は「初めて利用するユーザーに利用方法を説明する」こと。片方だけでは足りない、というのがポイントだ。価値だけ伝わっても使い方がわからなければ手が止まるし、使い方だけ丁寧でも、何が嬉しいのかが伝わらなければ使い続ける理由がない。「何がうれしいか」と「どうすればそれが手に入るか」をセットで渡して、初めて価値の実感に届く。
価値提案の中身そのものを磨きたいなら、『顧客起点マーケティング』(西口一希)が補助線になる。同書は、ベネフィットが似通う中で「なぜそれを信じていいのか」を示す理由が選ばれる決め手になると説いている。
数字だけ見ない:自分で使い、画面ごとに行動を見る
行動を画面ごとにウォッチする
いちばんやさしいグロースハックの教本
データで判断せよと言いながら、本書は数字の表だけを見ることを勧めてはいない。ユーザーの行動を画面単位で追い、どこで止まり、どこで離れているのかを具体的に見る。あわせて「自分自身でサービスを利用する」ことも求めている。
集計された数値は「どこで」落ちているかは教えてくれても、「なぜ」落ちているかまでは教えてくれない。画面ごとの観察と自分での利用は、その「なぜ」の仮説を立てるための手段だ。仮説があれば、次に動かす数値と施策が決まり、最初の「どの数値をどうしたいか」に戻ってループが回る。
数字の裏にある理由を深く掘る方向に進みたい人には、『ビジネスの結果が変わるN1分析』(西口一希)が合う。ABテストでAが勝ったときに「なぜAが選ばれたのか」を洞察しないと次の打ち手が出ない、という指摘は、本書の観察の話と地続きだ。
類書との比較(筆者の整理):『Hacking Growth』『N1分析』とどう違うか
グロースハックの本を探すと、本書と並んでよく挙がるのが『Hacking Growth グロースハック完全読本』(ショーン・エリス、モーガン・ブラウン)だ。もう1冊、行動の「なぜ」に寄った本として『N1分析』も並べてみる。
| いちばんやさしいグロースハックの教本 | Hacking Growth | ビジネスの結果が変わるN1分析 | |
|---|---|---|---|
| 中心のテーマ | グロースハックの基本の考え方と指標の置き方 | 成長のための実験を組織で回し続ける方法 | 一人の顧客の心理から打ち手を見つける |
| 主な道具 | KPI、行動データ、画面ごとの観察、AHAモーメント | グロースチーム、高速の実験サイクル | 顧客インタビュー、潜在ニーズの仮説と定量検証 |
| 向いている人 | グロースハックを初めて体系的に学ぶ人 | 改善の仕組みをチームに定着させたい人 | 数字は見ているが打ち手が出てこない人 |
※比較は各書の広く知られた主張と本書の引用にもとづく筆者の整理。
『いちばんやさしいグロースハックの教本』と『Hacking Growth』の違い
本書は「グロースハックとは何か」「何の数値を追うか」から始まる入門書で、1人でも読んですぐ考え方を取り入れられる。『Hacking Growth』は、その考え方を前提に、部門をまたいだチームで実験を高い頻度で回す運営の話に重心がある。順番としては、本書で言葉と考え方をそろえてから『Hacking Growth』で回し方を学ぶと、つまずきにくい。
数字の「なぜ」を掘るなら『N1分析』
本書の観察は「画面ごと」の行動が単位だが、『N1分析』は一人の顧客の心理まで降りていく。行動データで「どこで」を見つけ、N1で「なぜ」を確かめる、という組み合わせで読むと両方が生きる。
あわせて読みたい
- 『ビジネスの結果が変わるN1分析』(西口一希)——ABテストの勝ち負けの裏にある「なぜ」を一人の顧客から掘る
- 『顧客起点マーケティング』(西口一希)——具体的な顧客像から、選ばれる理由(RTB)とプロダクトアイデアを組み立てる
- 『イシューからはじめよ』(安宅和人)——問いの質と「分析とは比較すること」。KPIを選ぶ前の考え方に効く
よくある質問(FAQ)
Q. グロースハックとは?
本書の定義では、製品の中に自発的に成長する仕組みを組み込み、その結果をデータで改善していくことです。外から人を集める単発の施策ではなく、製品そのものに成長の仕組みを持たせ、行動データを見て直し続ける進め方を指します。
Q. AHAモーメントとは?
ユーザーがサービスの価値を「これは便利だ」と実感する瞬間のことです。本書は、何が価値なのかを示す価値提案と、初めてのユーザーへの利用方法の説明を組み合わせることで、AHAモーメントを生むと整理しています。
Q. 良いKPIの条件は?
本書は「行動につながる指標であること」「理解しやすい」「期間ごとに比較ができる」の3つを挙げています。数値が動いたときに次の打ち手が決まり、誰でも同じ意味で理解でき、過去と比べられる指標を選びます。
Q. 『いちばんやさしいグロースハックの教本』の要約は?
グロースハックを、製品に成長の仕組みを組み込みデータで改善することと定義し、どの数値をどうしたいかを先に決めること、行動データで判断すること、画面ごとに行動を観察すること、価値提案と利用方法の説明でAHAモーメントを生むことを解説した入門書です。
Q. 『Hacking Growth』との違いは?
本書はグロースハックの基本の考え方と指標の置き方を学ぶ入門書です。『Hacking Growth』はチームで実験を高い頻度で回す運営方法に重心があります。本書で考え方をそろえてから『Hacking Growth』に進む順番がおすすめです。
まとめ
本書を通して見えてくるのは、グロースハックが特別な才能やひらめきの話ではなく、順番の話だということだ。動かしたい数値を決め、行動を観察し、価値が伝わる最初の体験を整え、結果をデータで確かめる。どれも単体では地味だが、ループとして回ると成長の仕組みになる。施策のアイデアより先に「何の数値を、どうしたいのか」を言えるかどうか。改善が空回りしていると感じたら、まずそこを確かめるきっかけになる一冊だ。
いちばんやさしいグロースハックの教本 人気講師が教える急成長マーケティング戦略/金山裕樹・梶谷健人(インプレス) 評価:★4.0
関連する書評:ビジネスの結果が変わるN1分析/顧客起点マーケティング/イシューからはじめよ


