【書評・要約】『推論の技術』羽田康祐|帰納法・演繹法・アブダクションの違い

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「売上が落ちた。原因は何だろう?」——こう聞かれて、根拠のある当たりをすぐに付けられるだろうか。羽田康祐『問題解決力を高める「推論」の技術』は、帰納法・演繹法・アブダクションという3つの推論法を、ビジネスの例で解説する本だ。この記事では本書の要点を要約したうえで、3つの推論法を1枚の比較表にまとめ、仮説思考やロジカルシンキングの定番書とどう役割が違うのかを整理する。

目次

結論:「考え方の型」を3つに分けて持てる一冊

評価は★4.0。新しい思考法を足す本ではなく、普段なんとなくやっている「推測」を3つの型に分けて意識できるようにする本だ。とくにアブダクション(現象から原因の仮説を立てる推論)を、帰納法・演繹法と並べて学べる点がいい。

  • 向いている人:原因分析や仮説出しで「なんとなく」になりがちな人/ロジカルシンキング本を読んだが、考える中身のほうで詰まる人
  • 向かない人:すでに論理学や仮説思考の本を読み込んでいて、推論法の基礎は押さえている人

問題解決力を高める「推論」の技術/羽田康祐(フォレスト出版) 評価:★4.0

  • 帰納法:複数の事実から共通点を見つけて結論を出す
  • 演繹法:前提となるルールに当てはめて結論を出す
  • アブダクション:起きた現象を説明できる仮説を導く

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推論力とは「未知のことに筋道を立てる力」

本書は推論力を「未知の事柄に対して筋道を立てて推測し、論理的に妥当な結論を導き出す力」と定義する。ポイントは「未知の事柄に対して」の部分だ。答えが分かっていることを整理するのではなく、分からないことに当たりを付ける。問題解決の現場で求められているのは、まさにこちらの力だろう。そして、その筋道の立て方を帰納法・演繹法・アブダクションの3つに分けて解説していく。

帰納法・演繹法・アブダクションの違い【比較表】

先に全体像を置いておく。本書の内容をもとに、3つの推論法の違いを1枚にまとめた。「落とし穴」と「向いている場面」の列は筆者の整理である。

帰納法演繹法アブダクション
出発点複数の事実前提となるルール起こった現象
やること共通点を見つけるルールに当てはめる現象を説明できる法則を当てはめる
導くもの一般的な結論個別の結論原因の仮説
本書の例A・B・C社長は早起き →社長はみんな早起き人間はいつか死ぬ →Aさんはいつか死ぬ売上が落ちた →買う人が減ったに違いない
落とし穴集めた事実が偏ると結論も偏る前提が間違っていると結論も間違う説明できる仮説はほかにもありうる
向いている場面データや事例から傾向をつかむ方針を個別のケースに当てはめる・先を読む問題の原因を見立てる

こうして並べると、3つは優劣ではなく役割の違いだと分かる。帰納法で法則をつくり、アブダクションでその法則を使って原因を見立て、演繹法で先を読んで確かめる。1つの問題解決の中で、3つを順番に持ち替えるイメージだ。

帰納法とは:共通点を「見つける」推論(洞察的帰納法も)

帰納法は「複数の事実から共通点を発見して結論を導き出す推論法」。本書の例はシンプルで、A社長もB社長もC社長も早起きである、だから「社長はみんな早起きである」と結論づける。

面白いのは、その先に「洞察的帰納法」を置いていることだ。本書の言葉では「洞察を通して共通点を発見すること」。誰が見ても同じ共通点ではなく、一見バラバラな事実から、表面に出ていない共通点を見抜く。帰納法の価値は、ここで差がつくと読める。

一方で、帰納法の結論はあくまで「手元の事実から言えること」でしかない。早起きの社長ばかりを見ていれば、当然「社長は早起き」に見える。どの事実を集めたかで結論が変わる、という限界は意識しておきたい。

筆者がつまずきやすいのは帰納法

3つのうち、筆者自身がいちばんつまずきやすいのは帰納法だ。共通点を出そうとすると、具体的な特徴ではなく、抽象的なまとめ方に飛んでしまう。抽象的にまとめると、どんな事実にも当てはまるように見える一方で、次に何をすればいいかが見えなくなる。

本書の例を見返すと、「社長はみんな早起きである」という結論は、確かめられる具体的な行動のレベルにとどまっている。共通点は、ほかの事実でも当てはまるか確かめられる粒度で取り出す。帰納法を使うときは、この「具体のまま共通点を言えているか」を自分へのチェックにしている。

演繹法とは:ルールに当てはめて結論を出す推論

演繹法は「前提となるルールに物事を当てはめて結論を出す推論法」。「人間はいつか死ぬ」という前提に「Aさんは人間である」を当てはめ、「Aさんはいつか死ぬ」を導く、おなじみの三段論法だ。

演繹法は前提が正しければ結論も正しい。裏を返せば、前提がずれていれば結論もずれる。本書が「会議では意見や物事ではなく、前提のすり合わせをしっかりと行う」と書いているのは、この性質から来ている。意見がかみ合わない会議の多くは、結論ではなく前提が食い違っている。議論の手前で前提をそろえる、という指摘は実務ですぐ使える。

アブダクションとは:現象から原因の仮説を立てる推論

アブダクションの例:売上が落ちた原因を見立てる

3つ目のアブダクションは「起こった現象に対して法則を当てはめ、起こった現象をうまく説明できる仮説を導き出す推論法」。本書の例では、「売り上げが落ちた」という現象に「買う人が減れば、売り上げが落ちる」という法則を当てはめ、「売り上げが落ちたのは、買う人がへったからに違いない」という仮説を立てる。

アブダクションと演繹法はセットで使う

さらに本書は、アブダクションと演繹法の役割分担も示している。アブダクションは「起こった現象に対する原因の把握」、演繹法は「今後の推測と妥当性の担保」。過去の原因を見立てるのがアブダクション、そこから先を読んで筋を確かめるのが演繹法、という整理だ。この2つをセットで使う視点が、本書でいちばん実務に効くところだと思う。

仮説思考・ロジカルシンキング本との違い

ロジカルシンキングの定番書は、MECEやピラミッド構造のように「考えたことを整理して伝える」型を教えるものが多い。本書が扱うのはその手前、「そもそも結論や仮説をどう導くか」という推論の部分だ。整理の型は持っているのに中身が出てこない、という人には本書のほうが効く。

また「仮説思考」の本が説く「先に仮説を立ててから検証する」進め方は、仮説を立てる部分がアブダクション、その仮説から何が起きるはずかを読んで確かめる部分が演繹法に近い。仮説思考を「推論法の組み合わせ」として分解して理解できるのが、本書を読む価値の1つだと感じた。

論点の立て方については『イシューからはじめよ』が詳しい。本書で仮説の立て方を押さえ、イシュー本で「どの仮説から検証すべきか」を学ぶ、という読み順をすすめたい。

本書と合わせて読みたい

よくある質問(FAQ)

Q. 『問題解決力を高める「推論」の技術』の要約は?
未知の事柄に筋道を立てて推測する「推論力」を、帰納法・演繹法・アブダクションの3つの推論法に分けて、ビジネスの例で解説する本です。

Q. 帰納法と演繹法の違いは?
帰納法は複数の事実から共通点を見つけて一般的な結論を出す推論、演繹法は前提となるルールを個別のケースに当てはめて結論を出す推論です。帰納法は集めた事実が偏ると結論も偏り、演繹法は前提が間違っていると結論も間違います。

Q. アブダクションと帰納法の違いは?
帰納法が複数の事実から共通する法則を導くのに対し、アブダクションは起きた1つの現象に法則を当てはめて、その原因を説明する仮説を導きます。法則をつくるのが帰納法、法則を使って原因を見立てるのがアブダクションです。

Q. アブダクションとは何ですか?
起こった現象に法則を当てはめ、その現象をうまく説明できる仮説を導く推論法です。本書では原因の把握に使い、演繹法で今後の推測と妥当性の担保を行うという役割分担が示されています。

Q. どんな人向けですか?
原因分析や仮説出しを感覚でやってしまいがちな人、ロジカルシンキングの型は知っているが考える中身で詰まる人に向いています。

Q. ロジカルシンキングの本との違いは?
ロジカルシンキングの定番書が「考えたことを整理して伝える」型を扱うのに対し、本書は「結論や仮説をどう導くか」という推論そのものを扱います。

まとめ

『問題解決力を高める「推論」の技術』の価値は、普段は区別せずにやっている「推測」を、帰納法・演繹法・アブダクションという3つの道具に分けて持てるようにしてくれることだ。共通点を見つけるのか、ルールに当てはめるのか、現象から原因をさかのぼるのか。いま自分がどの推論をしているかを意識できるだけで、思い込みで結論に飛びつく場面は減る。仮説を立てるのが苦手だと感じている人ほど、3つ目のアブダクションの章から読む価値がある。

問題解決力を高める「推論」の技術/羽田康祐(フォレスト出版) 評価:★4.0

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