顧客起点マーケティング(西口一希)
「顧客起点マーケティング」は、その名の通り“顧客の具体的な姿”から出発して戦略と施策を組み立てるための実践書です。P&G での経験に裏打ちされたフレームワークと事例を通じて、「なぜその顧客がその商品を選ぶのか?」を徹底的に言語化する思考法を学べます。机上のマーケティング理論ではなく、現場で成果を出すための再現可能な考え方がまとまっている一冊です。
引用と学び
引用1:ブレストでは良いアイデアが出にくい理由
「アイデアを出すために大勢で集まってプレストやディスカッションをしても、有益な案は見つかりません。ブレストでは既視感があったり、単に奇抜なだけであったりと、商品提案としても広告訴求としても実現できないような案ばかりが多くあがります。その理由は、ブレストで想定する顧客像に、具体性がないからです」
この一節は、「アイデアの質は会議の人数ではなく、顧客像の解像度で決まる」というメッセージだと感じました。なんとなく「20〜30代女性」「子育てママ」といったざっくりしたペルソナのままブレストをしても、出てくる案はどこかで聞いたことがあるものか、奇抜だけど現実味のないものに寄りがちです。実務では、会議の前に「たった一人の具体的な生活・行動・口癖」まで落とし込んだ N1 を用意しておき、その人がカゴに商品を入れる瞬間を想像しながら案を出すだけで、議論の質が一段変わります。「人数を増やしてたくさん案を出そう」ではなく、「顧客像を絞り込んで深く理解しよう」に時間を使うことが、成果に直結するという示唆です。
引用2:Reason to Believe(RTB)という「信じる理由」
「P&Gにreason to believe(RTB)という信じるに足る理由という意味のマーケティング用語がある。RTBとして「〇〇」があるから顧客が購入しているわけで、風邪が治るという便益自体は、どの風邪薬でも共通して謳っていることです」
ここでは、「ベネフィットは似通っていても、RTB で差がつく」というポイントが語られています。「よく効きます」「すぐ溶けます」といったコピー自体はどのブランドも言えてしまう中で、「なぜそれを信じていいのか?」を示す RTB があるかどうかが、最終的な選択を左右します。実務では、商品の説明資料や LP を見直してみて、「効きます」「便利です」で終わっていないか、RTB が一緒に語られているかをチェックするのが有効です。たとえば「臨床試験で○○%が改善」「○○社だけの特許技術」といった、購入を後押しする“根拠の筋”をセットで語ることで、顧客の頭の中に「他と何が違うのか」が明確に残るようになります。
引用3:マーケティング成功の3要素
「マーケティングの成功に必要な3要素は「プロダクトアイデア」「コニュニケーションアイデア」「早期の認知形成」である」
このフレームは、施策を考えるときのチェックリストとしてかなり使えます。どうしてもマーケターはコミュニケーション(広告やクリエイティブ)に意識が寄りがちですが、そもそものプロダクトアイデアが顧客のインサイトに刺さっていないと、どれだけ上手く伝えても伸びません。また、良いプロダクトとメッセージを持っていても、「立ち上がりの早期にどれだけ認知を獲りにいけたか」が、その後の成長スピードを大きく左右します。自分の案件をこの3要素で棚卸ししてみると、「今詰まっているのはどこか」「次に投資すべきはどこか」が見えやすくなり、場当たり的な施策出しから一歩抜け出せます。

引用4:N1分析の本質
「一人を分析する「N1分析」で重要なのは、購買行動を左右している根本的な理由を見つけることです」
N1分析という言葉だけが独り歩きすると、「一人の行動ログを細かく見ること」と誤解されがちですが、著者が強調しているのは「根本的な理由(ドライバー)を掘り当てること」です。たとえば、同じ商品を買っている A さんと B さんでも、「時間を節約したい」のか「人からの評価を上げたい」のかで、見えている世界も、響くメッセージも変わります。ユーザーインタビューやカスタマーサポートのログを読むときに、「この人はなぜその一言を口にしたのか?」と一段深く問い直していくと、価格や機能の話の裏にある“本当の理由”が見えてきます。一見 N(サンプル数)は小さくても、その理由が分かれば、他の顧客にも応用できる強い仮説になります。
引用5:当たった施策を“なぜ当たったか”まで分解する
「Aという施策が当たっても、当たった心理面の理由が理解できないままでは再現性がありませんし、投資拡大ができません」
この指摘は、グロースの現場で痛感するポイントです。「とりあえず数字が伸びたから OK」だけで終えると、次に同じことを再現したり、別チャネルに展開したりする時に必ず行き詰まります。例えば、ある LP が高い CVR を出したとき、「訴求した機能が良かった」のか「価格の見せ方が安心感を与えた」のか「口コミの配置で社会的証明が効いた」のか、心理的な要因まで仮説を立てて検証することが大事です。施策レポートを書くときに、「何をしたか」よりも「なぜ効いたと考えるか」を1〜2段深く書き残しておくと、チームの資産としての価値が一気に上がりますし、次の打ち手の精度も高まります。
引用6:セグメントごとの差異を見る
「各顧客セグメント間における行動面と心理面の違いを見ることで、それぞれの顧客セグメント固有の課題や機械の仮説を見出すことができます」
ここでは、「セグメントを切る意味」が数字の違いを見ることではなく、「行動と心理の組み合わせ」を理解することだと示されています。単に「30代男性」「40代女性」といったデモグラではなく、「頻度高めに使っているが満足度が低い層」「たまにしか使わないが評価は高い層」といった行動軸と、その裏にある心理をセットで見ると、打つべき施策が具体的になります。例えば、よく使うが不満な層には UX 改善やプラン設計の見直し、評価は高いが頻度が低い層にはリマインド施策や利用シーンの拡張提案など、同じ KPI を追っていてもやるべきことが分かれます。データ分析のアウトプットを眺めるだけで終わらせず、「このセグメントの人はなぜこういう行動になっているのか?」という問いをセットで置くことで、仮説の質が一段上がると感じました。
まとめ
「顧客起点マーケティング」は、データやフレームワークを使いながらも、最終的には「たった一人の顧客の具体的な物語」から戦略を組み立てることの重要性を教えてくれる本です。ブレストや思いつきのアイデア出しに頼るのではなく、N1分析や RTB といった概念を通じて、「なぜその人がその商品を選ぶのか」を言語化するための道具が整理されています。日々の施策検討やレポート作成の視点を少し変えるだけで、同じデータから見えるものが大きく変わるはずです。マーケティングの打ち手が場当たり的になりがちだと感じている方こそ、一度じっくり読んで、自分の案件に引き寄せて考えてみる価値がある一冊です。是非読んでください!!