良い戦略、悪い戦略(リチャード・P・ルメルト)
戦略とは何か。多くの企業が戦略を掲げるが、実際には目標と戦略を混同し、実行可能な指針を持たない「悪い戦略」が蔓延している。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の経営学教授であるリチャード・P・ルメルトは、戦略の本質を「状況の中から決定的な要素を見つけ、そこに資源を集中させること」と定義する。本書は、良い戦略と悪い戦略の違いを明確にし、実践的な戦略思考の方法論を提示する。
引用と学び
引用1:良い戦略の本質は単純明快である
「良い戦略は必ずと言っていいほど、このように単純かつ明快である。必要なのは目前の状況に潜む一つか二つの決定的な要素すなわち、こちらの打つ手の効果が一気に高まるようなポイントをみきわめ、そこに狙いを絞り、手持ちのリソースと行動を集中すること、これに尽きる」
戦略を複雑に考えがちだが、良い戦略は驚くほどシンプルだ。重要なのは、あれもこれもと手を広げるのではなく、最も効果的な1〜2つのポイントを見極め、そこに全リソースを集中させることである。例えば、スタートアップが限られたリソースで成長する際、マーケティング、プロダクト開発、カスタマーサクセスなど全てに手を出すのではなく、「最も成長に寄与する1つのチャネル」に集中投資することが成功の鍵となる。この集中こそが、良い戦略の核心である。
引用2:戦略策定の肝は重要要素の特定と集中である
「戦略策定の肝は、つねに同じである。直面する状況の中から死活的に重要な要素を見つける。そして、企業であればそこに経営資源、すなわちヒト、モノ、カネ、そして行動を集中させる方法を考えることである」
戦略を立てる際、多くの経営者は「何をすべきか」のリストを作ることに終始しがちだ。しかし、真の戦略策定は「何をすべきでないか」を明確にすることから始まる。死活的に重要な要素を特定するには、現状分析を通じて、最も効果が高いポイントを見つけ出す必要がある。例えば、SaaS企業が成長のボトルネックを分析した結果、「オンボーディングの完了率が低い」ことが判明した場合、そこに開発リソース、マーケティング予算、カスタマーサクセスチームを集中させる。このように、戦略とは「選択と集中」の意思決定そのものなのである。
引用3:良い戦略には実行可能な行動指針が含まれる
「良い戦略には、とるべき行動の指針がすでに含まれている。こまかい実行手順が示されているわけではないが、やるべきことが明確になる。「いま何をすべきか」がはっきりと実現可能な形で示されていない戦略は、欠陥品と言わざるを得ない」
「売上を3倍にする」「市場シェアを拡大する」といった目標を戦略と誤解する経営者が多い。しかし、これらは目標であり、戦略ではない。良い戦略は「何をすべきか」を明確に示す。例えば、「競合が弱い地方市場に集中し、地域密着型の営業体制を構築する」という戦略は、具体的な行動指針を含んでいる。一方、「顧客満足度を向上させる」という目標だけでは、何をすべきかが不明確だ。戦略は、目標を達成するための「道筋」を示すものであり、その道筋が明確でなければ、実行不可能な欠陥戦略となってしまう。
引用4:実行面の問題は戦略と目標の混同から生まれる
「『実行面に問題がある』と嘆く経営者は、たいていは戦略と目標設定を混同している」
多くの企業が「戦略は良いが実行が悪い」と嘆くが、ルメルトはこれを「戦略と目標の混同」が原因だと指摘する。目標は「どこへ行くか」を示すが、戦略は「どうやって行くか」を示す。目標だけを掲げて戦略がない場合、実行チームは何をすべきかわからず、結果として実行がうまくいかないように見える。実際には、実行可能な戦略が存在しないことが問題の本質である。例えば、「新規顧客を100社獲得する」という目標だけでは、営業チームは何をすべきかわからない。しかし、「既存顧客の紹介プログラムを構築し、紹介経由の成約率が高いことを活用する」という戦略があれば、具体的な行動が明確になる。実行の問題は、多くの場合、戦略の欠如が原因なのである。
引用5:良い戦略には「ノー」と言えるリーダーが必要
「良い戦略に必要なのは、さまざまな要求にノーと言えるリーダーである」
リソースが限られている中で戦略を実行するには、多くの要求を断る勇気が必要だ。全ての要求に「イエス」と言うリーダーは、結果としてリソースを分散させ、戦略の効果を薄めてしまう。良い戦略を実現するには、戦略の核心から外れる要求に対して「ノー」と言えるリーダーシップが不可欠である。例えば、プロダクト開発において、顧客からの要望は無数にあるが、全てに応えることはできない。戦略的に「オンボーディング体験の改善」に集中すると決めたなら、それ以外の機能要望には「ノー」と言い、リソースを集中させる必要がある。この「ノー」を言う勇気こそが、戦略の成功を左右する。
引用6:悪い戦略は目標が多すぎて行動指針が少ない
「悪い戦略とは、戦略が何も立てられていないという意味ではなく、また失敗した戦略を意味するのでもない。悪い戦略では、目標が多すぎる一方で、行動に結びつく方針が少なすぎるか、まったくないのである」
悪い戦略の特徴は、目標の羅列に終始し、具体的な行動指針が欠如していることだ。例えば、「顧客満足度向上」「新規顧客獲得」「既存顧客の拡販」「ブランド認知度向上」といった目標を並べただけでは、戦略とは言えない。これらは全て重要かもしれないが、優先順位が不明確で、具体的に何をすべきかが示されていない。良い戦略は、これらの目標のうち「どれに集中すべきか」を判断し、「どのように達成するか」の道筋を示す。悪い戦略は、目標を掲げるだけで満足し、実行可能な指針を提供しない。その結果、チームは方向性を見失い、成果が出ないのである。
引用7:戦略的思考のための3つの習慣
「目先のことや最初の思いつきに迷わされずに自分の考えを導いていくためには、三つの習慣をつけるとよい。第一は、近視眼的な見方を断ち切り、広い視野を持つための手段を持つこと。たとえばリストは良い方法である。第二は、自分の判断に疑義を提出する習慣をつけること。自分からの攻撃にすら耐えられないような論拠は、現実の競争に直面したらあっさり崩壊してしまうだろう。第三は、重要な判断を下したら記録に残す習慣をつけることである。そうすれば、事後評価をして反省材料として活用できる」
戦略的思考を身につけるには、3つの習慣が有効だ。第一に、リストを作成して問題を可視化し、優先順位を明確にする。第二に、自分の判断を批判的に検証する習慣を持つ。第三に、重要な判断を記録し、後から振り返って学習する。これらの習慣は、短期的な思考から長期的な視点へと導き、より良い戦略を生み出す基盤となる。例えば、プロダクトの優先順位を決める際、リスト化して各機能の影響度と実装コストを比較検討し、自分の判断に対して「なぜこの機能が最優先なのか」「他に選択肢はないか」と自問する。そして、決定事項を記録し、3ヶ月後に振り返って「正しい判断だったか」を検証する。このような習慣が、戦略的思考力を高めるのである。
まとめ
「良い戦略、悪い戦略」は、戦略の本質を明確にし、実践的な戦略思考の方法論を提示する一冊である。多くの企業が目標と戦略を混同し、実行不可能な「悪い戦略」に陥っている現状を指摘し、良い戦略とは「状況の中から決定的な要素を見つけ、そこに資源を集中させること」だと定義する。本書を読むことで、戦略と目標の違いを理解し、実行可能な戦略を策定する思考法を身につけることができる。特に、リソースが限られるスタートアップや成長企業の経営者、プロダクトマネージャーにとって、集中すべきポイントを見極める力は不可欠である。戦略的思考を実践するための3つの習慣(リスト化、自己批判、記録と振り返り)を身につけ、良い戦略を策定できるようになろう。
是非読んでください!!