【書評・要約】『「仕事ができる」とはどういうことか?』楠木建・山口周|センスとは

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資格も取った、ツールも使える、知識もある。それなのに「仕事ができる人」と言われる人との差が埋まらない。楠木建・山口周『「仕事ができる」とはどういうことか?』は、その差の正体をスキルではなくセンスに求めた対談本だ。この記事では、本書の言う「仕事ができる人とは」を要約し、センスとスキルの違いを表で整理したうえで、同じ山口周さんの『美意識』『NEWTYPE』との違いまで比べていく。

目次

結論:「スキルを足しても届かないもの」に名前をつける一冊

評価は★4.0。世の中の仕事術の本の多くは「何を身につけるか」を教えてくれるが、本書はその足し算では説明できない部分を、対談の形で言葉にしていく。チェックリストのような答えは出てこない。そのかわり、「あの人はなぜできるのか」を考えるための見方が手に入る。

  • 向いている人:スキルを積んできたのに伸び悩みを感じている人/「仕事ができる」の基準を言葉にしたいマネージャー
  • 向かない人:明日から使える手順やフレームワークを求めている人(対談なので話があちこちに飛ぶ)

「仕事ができる」とはどういうことか?/楠木建・山口周(宝島社) 評価:★4.0

  • 仕事ができる=「この人がくれば、もう大丈夫」と思われること
  • 差を生むのはスキルではなくセンス。センスは後天的に磨ける
  • プロの凄みは「何をやるか」より「やる順序」に出る

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「仕事ができる人」とは:「この人がくれば、もう大丈夫」と思われる人

本書はまず、「仕事ができる」をスキルの一覧で定義しない。代わりに置かれるのが、次の基準だ。

仕事ができるとは「この人がくれば、もう大丈夫」というレベルである

「仕事ができる」とはどういうことか?

ポイントは、主語が「周りの人」になっていることだ。英語が話せる、分析ができる、という能力の話ではなく、その人が入ったときに周りが安心できるかどうか。能力の合計ではなく、成果をまるごと任せられるかという信頼の水準で測っている。

この定義に行きつくまでの考え方も面白い。本書は、ある概念を突き詰めるときは「何ではないか」をまず考えてみる、という順番を勧めている。「資格が多い」「作業が速い」は、それだけでは仕事ができることにはならない。そうやって外側を削っていくと、残るのが「任せて大丈夫か」という一点になる。

センスとスキルの違い【比較表】

本書の軸は、スキルとセンスの区別にある。スキルは学べば誰でも身につけられ、身につけた人が増えるほど差がつかなくなる。一方でセンスは、言葉にしにくく、教科書にもしにくい。仕事ができる人とそうでない人を分けているのは後者だ、というのが二人の見立てだ。

スキルセンス
中身英語・会計・分析手法など、名前のつく能力何を・どの順で・どこまでやるかの判断
身につけ方教材や研修で学べる教えにくいが、後天的に磨ける
測り方資格・点数で測れる成果と周りの信頼でしか見えない
持つ人が増えると差がつかなくなる差がそのまま残る

※表は本書の主張をもとにした筆者の整理。

仕事のセンスは磨けるのか

本書の答えは「磨ける」だ。ただし、スキルのように項目を一つずつ足していくやり方では磨けない。手がかりとして挙がるのが、「全体を全体のまま把握するということがセンスの錬成になる」という一文。部分に分けて理解するのではなく、仕事の全体がどう動いているかを丸ごとつかむ経験が、センスを育てるという考え方だ。

センスのある人は「断れる」

もう一つ印象的なのが、センスのある人は自分の得意な土俵をよくわかっているので、土俵の外の仕事を断ることができる、という指摘。何でも引き受けるのは一見頼もしいが、自分の土俵がわかっていないことの裏返しでもある。センスは「何をやるか」と同じくらい「何をやらないか」に出る。

プロの凄みは「順序」に出る:箇条書きではなく時間的奥行き

同じタスクのリストを渡されても、プロと素人では結果が変わる。その違いを本書はこう表現している。

プロの凄みは、何をやることではなく、やることの順序であり、箇条書きではなく時間的奥行きがある

「仕事ができる」とはどういうことか?

やることを箇条書きにすると、どれも同じ重さに並んでしまう。実際の仕事では、Aを先に片づけるからBが楽になる、Cを後ろに回すから全体が間に合う、というつながりがある。プロはそのつながり、つまり時間の流れの中で各要素がどう効くかを見ている。手順書に書けるのは「何をやるか」までで、「どの順でやるか」の判断が、スキルとセンスの境目になる。

似た話として、プロとは「速い球」ではなく「速く見える球」を投げる人だ、という野球のたとえも出てくる。球速という能力の絶対値ではなく、相手にどう効くかで勝負する。ここでも、問われているのは組み立てのほうだ。

問いの立て方:「何を知りたいか」が最も大切

センスの話は、考え方の作法にもつながっていく。本書では、調べ物や分析に入る前の問いの重要性がたびたび語られる。

「何を知りたいか」が最も大切な問い

「仕事ができる」とはどういうことか?

データはいくらでも集まる時代だからこそ、何を知りたいのかが決まっていないと、集めた情報は判断に使えない。本書はまた、問題を「望ましい状況と現在の状況とのギャップ」と定義すれば、望ましい状態をどんなものさしで測るかで問題のタイプが変わる、とも述べている。問いの置き方ひとつで、解くべき問題そのものが変わるということだ。

話し方にも同じことが出る。本書によれば、話が面白い人は「自分はこう思う」という内側からの話(インサイドアウト)をし、つまらない人は外側の予測を並べる(アウトサイドイン)。データや予測をいくら集めても、それを自分の問いと判断に結びつけなければ、相手には届かない。Netflix がコンテンツのタグづけをデータ任せにせず人がつけている、という例も紹介されている。データがそろう時代でも、何に意味を見出すかは最後は人が決めている、と筆者は読んだ。

類書との比較(筆者の整理):『美意識』『NEWTYPE』『イシューからはじめよ』と何が違うか

筆者がこの本の読書メモに残したのは、「自分のセンスの土俵は?」「『何を知りたいか?』を最初に問う」の2行だった。どちらも、本書の中身を自分への問いに置き換えたものだ。ここでは、同じテーマを扱う本と並べて、本書の立ち位置を整理しておく。

「仕事ができる」とはどういうことか?世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?NEWTYPE ニュータイプの時代イシューからはじめよ
問い仕事ができるとは何かなぜ論理だけでは足りないのかこれからの時代に価値を生む人は価値のある仕事は何から始まるか
キーワードセンス/順序/土俵美意識/アート・サイエンス・クラフト問題発見/意味の創出イシュー/問いの質
単位個人の仕事ぶり経営・意思決定社会の変化と人材像一つの課題の解き方
形式対談単著単著単著

※比較は各書の広く知られた主張と当ブログの各書評にもとづく筆者の整理。

『美意識』との違い:経営の話か、個人の仕事の話か

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は、論理だけでは差別化できない時代に、経営の意思決定を支えるものとして美意識を論じた本だ。本書の「センス」はそれと地続きだが、視点がぐっと個人の仕事に寄っている。美意識が「組織が何を選び、何を捨てるか」の話だとすれば、本書は「自分がどの順でやり、何を断るか」の話として読める。

『NEWTYPE』との違い:時代の話か、目の前の仕事の話か

『NEWTYPE ニュータイプの時代』は、正解がコモディティ化した世界で、問題を発見し意味をつくれる人が求められると説く。スキルが差にならなくなるという問題意識は本書と共通している。違いは射程で、NEWTYPE は社会全体の変化から人材像を描き、本書は「あの人はなぜできるのか」という身近な問いから入る。

『イシューからはじめよ』との共通点:問いが先

本書の「何を知りたいか」が最も大切な問い、という一文は、『イシューからはじめよ』(安宅和人)が説く、解の質より問いの質を上げるという考え方とほぼ同じ方向を向いている。イシューがその問いの立て方と解き方を手順として示す本だとすれば、本書は、問いの良し悪しを見分ける感覚そのものを「センス」と呼んでいる、という関係だ。問いを持つことが学びの出発点になる点は、『知的戦闘力を高める独学の技法』の「「問い」のないところに学びはない」にも通じる。

あわせて読みたい

よくある質問(FAQ)

Q. 仕事ができる人とは?
本書の定義では、「この人がくれば、もう大丈夫」と周りに思われる人です。個別のスキルの多さではなく、成果をまるごと任せられるかという信頼の水準で測ります。

Q. センスとスキルの違いは?
スキルは教材や研修で学べ、資格や点数で測れる能力です。センスは何を・どの順で・どこまでやるかの判断で、教えにくい一方、後天的に磨けると本書は述べています。

Q. 仕事のセンスは磨ける?
本書は磨けるという立場です。項目を足していくのではなく、仕事の全体を全体のままつかむこと、自分の得意な土俵を知ることが手がかりとして挙げられています。

Q. 『「仕事ができる」とはどういうことか?』の要約は?
仕事ができる=「この人がくれば、もう大丈夫」と思われることであり、その差を生むのはスキルではなくセンスだ、という対談本です。プロの凄みは何をやるかより順序に出ること、問いの立て方が大切なことなども語られています。

Q. 『美意識』との違いは?
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は経営の意思決定を支える美意識を論じた本で、本書はそれを個人の仕事ぶりの「センス」として、対談形式で掘り下げています。

まとめ

スキルは足し算で増やせるが、持つ人が増えるほど差にならない。最後に差として残るのは、何を、どの順で、どこまでやるか、そして何を断るかという判断のほうだ。本書はそれを「センス」と呼び、才能ではなく磨けるものとして扱う。手順は教えてくれないが、自分の仕事を振り返ったときに「足りないのはスキルなのか、センスなのか」を切り分けるものさしをくれる一冊だ。

「仕事ができる」とはどういうことか?/楠木建・山口周(宝島社) 評価:★4.0

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