【書評・要約】『外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』山口周|期待値調整

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プロジェクトマネジメントの失敗は、ガントチャートの引き方より「期待値調整」や「定例会議の報告の中身」で起きることが多い。山口周『外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』は、その人と情報の側のマネジメントを扱う本だ。この記事では本書の要点を5つに整理し、期待値調整とは何か、定例会議で何を出すべきかを、手法中心の入門書との違いとあわせて見ていく。

目次

結論:プロジェクトを「人と情報」で回すための実務書

評価は★4.0。WBSや工程管理の手順書ではなく、目的の握り方、関係者の期待の扱い方、会議での情報の出し方といった、プロジェクトが「人の集まり」であるがゆえに起きる問題に焦点を当てている。手法の知識はあるのに現場がうまく回らない、と感じている人ほど得るものが多い。

  • 向いている人:初めてプロジェクトのリーダーや推進役を任された人/関係者が多い案件を回している人
  • 向かない人:PMBOKの知識体系や、スケジュール・コスト管理の手法を体系的に学びたい人

【新装版】外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント/山口周(大和書房) 評価:★4.0

  • 目的が不明確なプロジェクトは失敗する。迷ったら目的に立ち返る
  • 関係者の期待値調整を怠らず、トレードオフはその場で提案する
  • 定例会議では「やったこと」ではなく「その時点の結論・仮説」を出す

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要点の全体像:5つのテーマと「やること」

先に全体像を表にしておく。本書の主張は、ほぼすべてがこの5つのどれかに収まる。

テーマ本書の主張現場での一手(筆者の整理)
1. 目的目的が不明確なPJはポシャるキックオフで目的を言葉にし、停滞したら「そもそも何でやるのか」に戻る
2. 期待値期待値調整を怠らないスコープが広がる話が出たら、その場で人員や期限とのトレードオフを示す
3. 会議定例では結論や仮説を出す報告を「何をしたか」から「何がわかったか」に書き換える
4. 情報の流れ「何を言っても許される」ことを保証する悪い知らせを持ってきた人を責めない。フィードバックをし合う
5. 政治と成長リーダーには政治の感性が要る上位者とも臆せず意見を交わし、PJ開始時に「どう成長したいか」を聞く

※「現場での一手」の列は、本書の主張を実務の行動に置き換えた筆者の整理。

要点1:プロジェクトの成否は「目的」で決まる

目的が不明確なPJはポシャる

外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント

身もふたもない一文だが、本書の出発点はここにある。目的があいまいなままだと、メンバーはそれぞれ違うゴールを思い描いて動き、判断に迷ったときに何を基準に決めればいいかもわからない。進捗管理をどれだけ丁寧にしても、向かう先がぶれていれば成果にはつながらない。

著者は目的を最初に決めて終わりにせず、「ことあるごとに「目的」に立ち返る」ことを求めている。特に効くのが停滞したときで、「これってそもそも何でやるのですか」という問いが有効だという。行き詰まると「どう進めるか」ばかり考えがちだが、目的に戻ると、やらなくていい作業や、ずれ始めていた論点が見えてくる。

「何を解くべきか」を先に決める考え方は、『イシューからはじめよ』(安宅和人)の「問いの質を上げる」という主張とも重なる。本書はそれを、チームで動くプロジェクトの文脈に置き直した本と読める。

要点2:期待値調整とは?トレードオフは「その場」で示す

期待値調整を怠らない

外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント

期待値調整とは、関係者が「このプロジェクトで何がどこまで手に入るか」について抱いている期待と、実際に出せるものとのずれを、早めにすり合わせておくことだ。成果物そのものの出来がよくても、相手の期待がそれより上にあれば「期待外れ」と受け取られる。プロジェクトの評価は、成果と期待の差で決まると言ってもいい。

トレードオフの提案はその場で行う

期待値調整の具体的な場面として本書が挙げるのが、トレードオフの提案だ。例えば「スコープを拡大したい」と言われたら、その場で「人員を増加させてください」と返す。後回しにしない理由は、「時間経過で貸し借りはリセットされるため」。依頼を黙って飲み込み、あとから条件を持ち出しても、相手にとってはすでに決まった話になっている。

要求を断るのではなく、「それをやるなら、これが要る」と交換条件を示す。この一手が、スコープだけが膨らんで現場が疲弊するパターンを防ぐ。

要点3:定例会議の進め方は「やったこと」ではなく結論・仮説を出す

定例会議では「やったこと」ではなく「その時点での結論や仮説」を出す

外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント

本書の中でもすぐに使えるのがこの指摘だ。定例の報告が作業の一覧になっていると、聞いている側は「で、何がわかったの?」と考え直すしかなく、会議で何も決まらない。本書の例をもとに並べると違いがはっきりする。

やったこと(避けたい報告)その時点での結論(出すべき報告)
本書の例アンケートを実施したアンケートから〇〇といった示唆が得られた
会議で起きること(筆者の整理)聞き手が意味を考え直す。決定が先送りになる示唆が正しいか、次に何をするかの議論に入れる

途中段階の結論は外れることもある。それでも仮説として出しておけば、会議の場で修正できる。結論を出すまで黙っているより、早く外したほうがプロジェクト全体は速く進む、というのが本書の立場だと読める。

要点4:情報が流れるチームをつくる

情報の送り手が判断できない場合、情報の流通性は低下する

外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント

ここで言う「判断できない」とは、情報を伝えた相手がどう反応するかが読めない状態のことだ。悪い知らせを持っていったら怒られるかもしれない、と思えば、人は報告を遅らせるか、言わずに済ませる。その結果、リーダーのもとに届く情報は遅く、きれいに整えられたものばかりになる。

そのために本書は、リーダーが「「何を言っても許される」ことを保証する」ことを求める。あわせて挙げられているのが「FBをする・もらう」こと。一方通行の指示ではなく、互いにフィードバックを交わす関係があるほど、問題は小さいうちに表に出てくる。

要点5:リーダーに必要な「政治の感性」と成長の問い

上位役職者の人たちとの「生意気なやりとり」は多くの場合、高評価につながる

外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント

本書はリーダー像について、きれいごとだけでは済ませない。マキャベリを引きながら、目的を達成するためには権謀術数や政治の感性も必要で、ときには狡猾さも使うべきだという立場をとる。相手をだますという意味ではなく、組織の利害や力関係を読んだうえで、目的に向けて人を動かす力のことだ。上位者に遠慮して黙るより、意見をぶつけたほうが評価されることが多い、という指摘もこの延長にある。

もう一つ印象に残るのが、メンバーの成長への目線だ。プロジェクトの開始段階で「このPJを通してどんな成長をしたい」と聞くことで、本人が自分の成長課題を考えるきっかけになるという。プロジェクトを成果を出す場であると同時に、人が伸びる場として設計する発想だ。

問題設定をリーダーの役割の中心に置く考え方は、同じ著者の『NEWTYPE ニュータイプの時代』にも通じている。

類書との比較(筆者の整理):PMBOK型の入門書とどう違うか

プロジェクトマネジメントの本を探すと、PMBOKをベースにした入門書が多く見つかる。本書はそれらと競合するというより、カバーしている場所が違う。

本書PMBOK型の入門書『コンサルが最初の3年間で学ぶコト』
中心のテーマ目的・期待値・会議・情報の流れスコープ・スケジュール・コストなどの管理手法論点からタスク・スケジュールへ落とす仕事の型
視点プロジェクトを率いる人プロジェクトを管理する仕組み若手の担当者
向いている悩み手順は知っているのに現場が回らない何を管理すればいいか全体像がわからない日々の仕事の進め方に型がない

※比較は各書の広く知られた主張と、当ブログの書評記事にもとづく筆者の整理。

PMBOK型の入門書との違い

PMBOK型の本が「何を管理するか」の地図をくれるのに対し、本書は「人がからむと何が起きるか」を扱う。期待値のずれ、悪い報告が上がってこない空気、上位者との力関係といった論点は、管理手法の本ではあまり前に出てこない。体系を学んだあとに本書を読むと、知識と現場のあいだにあるすき間が埋まる。

『コンサルが最初の3年間で学ぶコト』との使い分け

『コンサルが最初の3年間で学ぶコト』(高松智史)は、論点→サブ論点→タスク→スケジュールと仕事を分解する型や、相談後に必ず報告するといった担当者としての作法が中心だ。本書はその一段上、プロジェクト全体を率いる立場から目的や期待値をどう握るかを扱う。担当者として動き方を固めたいなら前者、推進役を任されたら本書、という順番で読むと位置づけがわかりやすい。

あわせて読みたい

よくある質問(FAQ)

Q. 期待値調整とは?
関係者がプロジェクトに抱いている期待と、実際に出せる成果とのずれを、早めにすり合わせておくことです。本書は「期待値調整を怠らない」ことを求め、スコープ拡大の依頼にはその場で人員などのトレードオフを示すよう勧めています。

Q. 定例会議では何を報告すればいい?
「やったこと」ではなく「その時点での結論や仮説」です。「アンケートを実施した」ではなく「アンケートから〇〇という示唆が得られた」と報告すると、会議で次の打ち手を議論できます。

Q. 『外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』の要約は?
プロジェクトを人と情報の面から回すための本です。目的を明確にして立ち返ること、期待値調整、定例での結論・仮説の共有、何でも言える場づくり、リーダーの政治の感性が主な論点です。

Q. PMBOKの入門書との違いは?
PMBOK型の本がスコープやスケジュールなどの管理手法を体系的に扱うのに対し、本書は目的・期待値・会議・人間関係といった、人がからむ部分のマネジメントに焦点を当てています。

Q. どんな人向けですか?難しい?
初めてプロジェクトを任された人や、関係者の多い案件を回している人に向いています。専門用語は少なく、プロジェクトの経験があれば読みやすい本です。

まとめ

本書を通して見えてくるのは、プロジェクトの失敗の多くが手法の不足ではなく、目的・期待・情報が人のあいだでずれることから起きる、という見方だ。目的に戻る、期待のずれをその場で埋める、結論を早く出す、悪い知らせが上がる場をつくる。どれも地味だが、管理表には現れない部分でプロジェクトの成否を分けている。手順どおりに進めているのに現場が重いと感じたら、手を入れるべきはそちらかもしれない。

【新装版】外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント/山口周(大和書房) 評価:★4.0

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