ビジネスの結果が変わるN1分析(西口一希)
「ビジネスの結果が変わるN1分析」は、たった一人の顧客(N=1)を徹底的に理解することで、事業全体の戦略や打ち手まで変えてしまう思考法を解説した一冊です。データ分析やABテストが当たり前になった時代に、「なぜその顧客がその選択をしたのか?」という顧客心理に深く潜っていくことで、再現性のある伸びしろを見つけるための具体的な手順がまとまっています。マーケターだけでなく、事業責任者やプロダクトマネージャーにも刺さる、“顧客起点”の実践書です。
引用と学び
引用1:「誰に・何を・なぜ買ってもらえるか」でビジネスを組み立てる
「経営と顧客の行動を繋いでいる「顧客心理」に着目し、「誰に(WHO)」「何を(WHAT)」提供するのか、そして「なぜ買って(使用して)いただけるのか」を軸にビジネス構築されているのです」
この一文は、「ビジネスの設計図はすべて顧客心理から逆算せよ」というメッセージだと感じました。売上目標やプロダクト機能から発想しがちなところをぐっとこらえて、「誰に」「何を」「なぜ」という3つの問いで事業を再定義すると、やるべきこととやらなくていいことがはっきりします。実務では、プロジェクトのキックオフや四半期の戦略見直しのタイミングで、スライド1枚にこの3つだけを大きく書き出して、チームで言語をすり合わせると意外なズレが見えてきます。そのズレこそが成果を阻んでいることが多いので、まずは「誰に・何を・なぜ」を共通言語にするところから始めると、打ち手の優先順位もクリアになります。
引用2:N1分析とは潜在ニーズを掴み、拡張するプロセス
「「N1分析」では、顧客の購入行動につながる、顧客自身も気づいていない、言語化できていない潜在ニーズを掴み、有効なプロダクトの提案、さらにマーケティング施策を創出し、定量的な検証を重ねて拡大展開していきます」
N1分析を「一人の顧客を観察すること」とだけ捉えると表面的ですが、著者は「潜在ニーズの発見 → 施策化 → 定量検証 → 拡大」という一連のプロセスとして描いています。つまり、インタビューで面白い発言を拾って満足するのではなく、「そのインサイトからどんな提案ができるか」「それをどう検証するか」まで一本の線でつなげるのがN1分析です。自分の業務に取り入れるなら、まず1人の顧客のストーリーを丁寧に書き起こし、「この人はどんな“隠れた不満”や“叶えたい未来”を持っているか」を仮説化し、それをもとに1つ小さな施策を試すところまでセットで設計すると、学びが事業インパクトに直結しやすくなります。
西口一希さんの別の本である「顧客起点マーケティング」でもN1で顧客を捉えることの重要性を説いているので、詳細については以下の記事をご覧ください。

引用3:ABテストは「なぜAが選ばれたか」を掘らないと行き詰まる
「例えば、デジタルマーケティングでは当たり前になっている「ABテスト」でも、Aの成果が上がったらから単にAに施策を寄せるのではなく、「なぜお客様はAを選んだのか」「なぜBは選ばれなかったのか」を深く洞察することによって、Aよりはるかに成果が高いXをいう案が生まれる可能性が広がるのです。Xという案を追求しない「ABテスト」は、程なく行き詰まります」
この指摘は、現場の「テスト疲れ」に効く本質的なアドバイスです。多くの場合、ABテストは「Aが勝った、ではAで固定」となりがちですが、それだと“目の前の改善”で終わってしまい、構造的なブレイクスルーに繋がりません。Aが選ばれた理由・Bが選ばれなかった理由を心理レベルまで言語化できると、「じゃあ、AとBの良いとこ取りをしたX案はどうか」「まったく別の切り口Yはありえないか」と、テストの探索範囲が一気に広がります。自分の案件では、テスト結果のレポートに「勝ち負け」だけでなく「なぜそうなったと考えるか」「次に試せるX案の仮説」を必ずセットで書き残す習慣をつけると、チーム全体の学習速度が上がります。
引用4:「顧客は誰か」という最も重い問い
「「顧客は誰か」との問いこそ、個々の企業の指名を定義するうえで、最も重要な問いである。やさしい問いではない。まして答えのわかりきった問いではない。しかるに、この問いに対する答えによって企業が自らをどう定義するかがほぼ決まってくる。」
この一節は、「顧客定義=企業の意思決定そのものだ」と釘を刺しています。「20〜30代の働く女性」などとさらっと言ってしまうと簡単ですが、本当に自社が守りたい・勝ちたい顧客は誰なのかを突き詰めるのは、経営レベルの覚悟が必要な問いです。顧客を狭く定義すればするほど、短期的な市場規模は小さく見えますが、その分プロダクトやコミュニケーションは鋭くなり、結果として強いポジションを築けます。実務では、ペルソナやターゲットセグメントを定期的に見直し、「本当にこの人たちを顧客と呼び続けるのか?」「この人たちのためなら何を諦められるか?」と問い直すことで、事業の軸ブレを防ぐことができると感じました。
引用5:外れ値から市場の兆しを見つける
「企業規模にかかわらず、市場を開拓するには、いわゆる「外れ値」、すなわち標準偏差の分布でいうと普通はニッチだとして無視される部分から兆しを見つけて、そこを広げていくことが重要になってきます。」
ここでは、「平均値ではなく外れ値を見る」ことの重要性が語られています。多くのレポートは平均的なユーザー像やメジャーセグメントにフォーカスしますが、実は一見ニッチな使い方をしている外れ値ユーザーの中に、新しいカテゴリーやプロダクトのヒントが眠っていることが多いです。例えば、ヘビーユーザーの中でも特に異常値的に使い込んでいる人や、変わったシーンで使っている人を観察すると、「そこまでしてでも叶えたいニーズ」が見えてきます。その兆しをプロダクトやマーケティングに落とし込んでいくことで、競合がまだ気づいていない成長の種をいち早く掴むことができます。
引用6:ロイヤル顧客を起点に3つの問いを立てる
「企業が考えるべきポイントは次の3つ
・ロイヤル顧客がずっと購入し続けてくださるためには何を提案したら良いのか
・一般顧客をロイヤル化するためには何を提案したらいいのか
・ロイヤル化しそうな新規顧客を獲得するためには何を提案したら良いのか」
この3つの問いは、そのまま顧客戦略のフレームワークとして使えます。つい「新規獲得」ばかりを追いがちですが、ロイヤル顧客を維持・強化し、一般顧客をロイヤル化し、ロイヤル予備軍を取り込むという3レイヤーで考えると、KPI設計や施策ポートフォリオのバランスが整理されます。実務では、顧客をLTVや頻度でざっくり3〜4階層に分け、それぞれに対して「次にとってほしい行動」と「それを後押しする提案」を1つずつ書き出すだけでも、打ち手の具体度が一気に上がります。N1分析で見えてきたロイヤル顧客の“強い瞬間”を、この3つの問いに当てはめていくと、事業全体のグロースストーリーが描きやすくなるはずです。
引用7:インタビューで押さえるべき「強い瞬間」
「インタビューで押さえるポイントは、ロイヤル化する「強い瞬間」」
顧客インタビューというと、属性や利用頻度、満足度を機械的に聞いてしまいがちですが、著者は「ロイヤル化する強い瞬間」にフォーカスせよと言います。例えば、「最初にこのサービスをすごいと思った瞬間は?」「友人にすすめたとき、どう紹介しましたか?」といった質問から、その顧客にとっての“感情が一段跳ねた瞬間”を探り当てるイメージです。その瞬間がわかると、オンボーディングや体験設計で「その強い瞬間にできるだけ早く辿り着かせるには?」という発想ができ、結果としてロイヤル化率を高めることに繋がります。インタビューの質問項目を作るときは、事実の羅列ではなく「瞬間」と「感情」に踏み込む問いを必ず1〜2個入れておくと、N1分析の質がグッと変わると感じました。
まとめ
「ビジネスの結果が変わるN1分析」は、データやフレームワークに溺れず、「たった一人の顧客の物語」から事業戦略を組み立て直すための実践的なガイドです。WHO・WHAT・WHYの再定義、ABテストの捉え直し、外れ値やロイヤル顧客への着目など、どれも今日から自分の案件で試せる視点ばかりで、読み進めるほどに「自分のプロダクトをもう一度N1から見直したくなる」感覚があります。施策が場当たり的になっている、数字は追っているのに顧客の顔が見えなくなっている、というモヤモヤを抱えている人にこそおすすめしたい一冊です。是非読んでください!!